越谷市宮本町の昭和な町中華・高柳亭(こうりゅうてい)。70代後半の夫婦二人で切り盛りしているお店を昭和な常連客が支えている。メニューは75種類。セットメニューを加えると80種類を超える。高柳亭のメニュー食べ尽くしシリーズ第二弾の今回は「麺類」。ラーメン・タンメン・五目そば…。昭和の町中華の三大麺を手はじめに、高柳亭の麺類メニュー全23種類を食べ尽くす。

ラーメン|中華そば

のれん

町中華の麺類メニューを食べ尽くすなら何はともあれまずはラーメンから。高柳亭でも店舗のれんには「中華そば」と書かれている。しかも「昔ながらの伝統の味」と添え書きされている。
 
いわば高柳亭にとってラーメン(中華そば)は象徴なのである。「中華そばは、高柳亭の象徴であり高柳亭メニュー統合の象徴であって、この地位は、常連客の総意に基づく」と、高柳亭憲法第一条でも規定されている(ホントか?)
 
であるからして、高柳亭では、新参者はラーメンを最初に食べなければならない。ラーメンを食べずして高柳亭は語れないのである。間違ってもいきなりかつ丼とかハムカツ定食などを頼んではいけない。そんな注文をしようものなら「常連客の総意に反する国賊」として、断罪される。
 
当然、ボクも高柳亭で最初に食べたのはラーメンだった。

ナルトは高柳亭の象徴だ!

ラーメン|中華そば

さて、高柳亭のラーメンだが、昭和31年生まれのボクとしては、「中華そば」と呼んだほうがしっくりくる。スープはあっさり。具はナルト・チャーシュー・シナチク・ワカメ・ワケギ。いたってシンプル。煮卵だの背脂だの焦がしニンニク油だのそんなものが登場するはるか前の時代の味だ。まさに昔ながらの味。
 
そしてなんといってもナルト。昭和世代にとってナルトは中華そばにはなくてはならない具だ。チャーシューが入っていない中華そばはあったが、ナルトが入っていない中華そばはなかった。つまりナルトは中華そばの象徴なのである。
 
今、ナルトはラーメン界では絶滅の危機に瀕している。日本ではイリオモテヤマネコやコウノトリと並んで絶滅危惧種にも指定されている。ニホンオオカミのように絶滅するおそれも懸念されているが、高柳亭では、ナルトはまだまだ健在。ラーメン以外にもチャーハンや玉子丼など他のメニューでも活躍している。
 
ここに高柳亭のご主人の哲学がみてとれる。高柳亭のラーメンには、高柳亭のご主人が、半世紀近くに及ぶ町中華の調理人人生で培い、伝えてきた、伝統の味が凝縮されている。それを象徴しているのがナルトなのである。

タンメン

湯麺

ボクのブログの高柳亭の記事を見た女性・Nさん(都内在住・おそらく60代後半)から、ブログの問い合せフォームを通してこんなメッセージが届いた。
 
「私の近所にも高柳亭さんのようなお店がありましたが数年前に駅前の再開発で廃業してしまいました。私はそのお店の昭和のタンメンが大好きでした。高柳亭さんのタンメンもきっと同じく昭和のタンメンだと思います。お願いがあります。ぜひ須藤さんが高柳亭さんのタンメンを食べてその写真をアップしてください」
 
という切なるリクエストを送ってくださったので、今日はNさんのリクエストにお応えすべく、タンメンを注文した。

心が安らぐ味

タンメン

運ばれてきたタンメンは、まさに懐かしの昭和のタンメン。見た目もボクが小学生のときに、父に連れられて行った中華屋(三年前に廃業)のタンメンと同じだ。もやし・キャベツ・ニラ・にんじん・キクラゲ・タマネギ・豚肉……。野菜たっぷり。そしてスープはあっさりの塩味。スープをひとくち。やさしくて、懐かしい味だ。ほっとするというか、心が安らぐ。
 
こうしたあっさり味のタンメンは姿を消しつつある。Nさんの言うように街の再開発とともに消えていってしまう味なのかもしれない。さみしいかぎりである。
 
家に戻って、Nさんに高柳亭のタンメンの写真と感想をメールで送ったら、すぐに返信がきて感激していた。「私の思っていたとおりのタンメンでした。味も伝わってきました。ありがとうございます」
 
文末に「次はもやしそばをリクエストしていいですか」とあった(笑)

五目そば

五目そばとおにぎり

今回の注文は五目そば。おにぎりも付けてもらった。
 
五目そばを食べるのは何十年ぶりだろう。五目そばを待つ間、記憶をたどっていったら、高校一年生のときに、地元の萬来軒という中華そば屋で食べた以来、というのを思い出した。なんと50年ぶりだ。
 
50年ぶりの再会に胸が高鳴る。
 
と、そこへ、五目そばが運ばれてきた。50年ぶりの再会に、思わず目頭(めがしら)が熱くなった……と思ったら、五目そばの湯気で目がショボショボしただけだった。
 
ま、それはそれとして――

五目そばを上からのぞくと

五目そば

麺が見えないくらい具がたくさん載っている。まずなんといっても伊達巻き。五目そばには欠かせない具のひとつだ。そして、チャーシュー、玉子、カマボコ、ナルト、シナチク……。
 
五目というのは「五種類」という意味もあるが、「たくさん」という意味でも使われる。五種類の具を五目そばのレギュラーとすると、あとの具材は補欠、またはベンチ要員ともいえる。
 
レギュラーの筆頭格は伊達巻き。これには誰も異論はないだろう。そして、チャーシューと玉子、カマボコ。この三品もレギュラー格。
 
そして五番目、残りひとつの席を争うのがナルトとシナチク。世間の評価はシナチクに軍配を上げるだろうが、ボクは、ナルトの町中華への貢献度を高く評価しているので、ここはナルトをスタメンにして、シナチクにはベンチに座ってもらった。
 
そのほか、チーム高柳亭・五目そばのベンチを温めるメンバーは、ワカメ・豚肉・チンゲンサイ・ニンジン・白菜・タケノコ・シイタケ・キクラゲ……。
 
スープは塩味。野菜と肉との相性もいい。
 
五目そばを食べ進めていくと、ナント、麺の下からプリプリの海老が一尾、顔を出した。思わぬところで伏兵が登場した。しかもエビだ。エビをスタメンからはずすことは世論が許さない。
 
ということで、残念ながらナルトには、ベンチに下がってもらった。

ワンタンメン

ワンタンメン

ワンタンメンは、ひとことでいうと、ワンタンに麺が入っているやつ。具体的に言うと、ラーメンにワンタンが入っているやつ。ご理解いただけましたでしょうか。
 
では話を先に進めさせていただきますと、スープはラーメンといっしょ。具はワンタンとラーメンと同じ。ナルトにメンマにワカメにワケギ。味はといいますと、ラーメンとワンタンを足して二で割った感じ。
 
ラーメンのようでラーメンじゃない、ワンタンのようでワンタンじゃない、ベンベン、それは何かとたずねたら、あ、ワンタンメン、ワンタンメン。
 
ご理解いただけましたでしょうか。

ワンタンメンの思い出

たしか小学校の三年生だったと思う。祖母が駅前の中華そば屋に連れて行ってくれた。当時、すでに開業40年以上たっていた店で、老夫婦ふたりで切り盛りしていた。
 
祖母が、好きなものを食べなさい、と言ってくれたので、ボクは大いに喜び、一度食べてみたかったワンタンメンを、注文をとりにきた店のおばあさんに注文した。
 
ワンタンメンは、ラーメンの中にワンタンが入っているという、ボクにとっては夢のような食べ物だった。
 
母はケチなので、その中華そば屋に連れて行ってくれても、ラーメン以外は食べさせてもらえなかった。しかも母は一人前だけ頼んで、ボクは取り皿に分けてもらったラーメンしか食べることができなかった。
 
その点、祖母は孫に甘いので、「お母さんにはないしょだよ」ということで、夢のワンタンメンを注文させてくれた。
 
と、そこへ、「おまちどうさまでしたねえ…」と、店のおばあさんが、ワンタンメンを運んできた。夢のワンタンメンとついにご対面のときがきた。

あれ?

ワンタンメンとタンメン

胸をときめかせてどんぶりをのぞくと、どうもなんだか様子がおかしい。野菜がいっぱい載っている。ナルトやシナチクもないし、肝心のワンタンの姿がどこにも見あたらない。
 
ナント、店のおばあさんが「ワンタンメン」と「タンメン」を聞き間違えたのだった。涙目になったボクに祖母は「がまんして食べなさい」と言った。
 
以来、ボクはタンメンに対して、異常なまでの敵愾心を抱いている。

冷やし中華

冷やし中華

5月26日。越谷市の天気は晴れ。気温は26度。今日は格好の冷やし中華日和。ということで越谷市宮本町二丁目にある町中華・高柳亭で冷やし中華を食べた。醤油だれの王道の味。昭和世代にとっては、これぞ冷やし中華!
 
高柳亭の冷やし中華の盛り付けは「下町エリア」と「山の手エリア」に分かれている。

下町エリア

ナルト・キュウリ・細切り卵|冷やし中華

下町エリアは、ナルト・キュウリ・細切り卵。

山の手エリア

チャーシュー、カニ、ハム|冷やし中華

山の手エリアは、チャーシュー、カニ、ハム。

ワカメは関所

下町エリアと山の手エリアの境にはワカメが盛り付けられている。いわばワカメは下町エリアと山の手エリアをつなぐ関所といえる。とくに下町エリアから山の手エリアへの通行には厳しく、通行手形がないと通れない(ホントか?)

カラシを求めて関所破り(?)

そして冷やし中華には欠かせないカラシは山の手エリア、しかも山の手の生活水準を象徴するカニの前に置かれている。下町エリアにとって冷やし中華のカラシは遠く手が届かない高嶺の花なのだ。
 
下町エリアの住民がカラシを手にするには、通行手形を取得してワカメの関所を通過するか、山を越えて死罪覚悟で関所破りをするしかないが、頂上では紅ショウガ代官が目を光らせている。

さてと、下町エリアと山の手エリア、どっちから崩すとするか。
 
東京都下で生まれ、越谷で暮らす山の手とは縁遠い人生を送ってきたボクは、ちゅうちょすることなく(ひがみを込めて)山の手エリアから崩した。そして関所も開放し、下町エリアにもカラシをじゅうぶんに施し、高柳亭の冷やし中華を堪能した。

※ 高柳亭の冷やし中華は5月~9月まで。