2021年3月17日・水曜日。越谷市神明町にある美味しい蕎麦屋・いしいのそば越谷分店で、こしがや愛されグルメにも認定された人気メニュー「そばづくし」をいただいた。通された奥座敷にはブラウン管テレビや真空管ラジオをはじめ石原裕次郎や美空ひばりなど映画スターのポスターなどが展示されていて、懐かしの昭和30年代にタイムスリップしたかのようだった。

そば、しっぱいしなければあります。

いしいのそば越谷分店|外観

いしいのそば越谷分店は午前11時半開店。店に着いたのは11時35分。すでに店の前に車が三台停まっていた。入口に掛けられている「そば、しっぱいしなければあります。店主」の看板がなかなか粋。今日は、そば打ちは失敗しなかったようで、お店に入れた(笑)

今日はどうしちゃったのかなぁ…

店内

中に入ると先客が4組いた。「ふだん、平日はこんなにお客様がみえることはないんですけど、今日はどうしちゃったのかなぁ…」と店主。そういえば二日前、こしがやエフエムで、いしいのそば越谷分店が紹介された。今日の人気ぶりはこしがやエフエム効果か?

奥の座敷へどうぞ

奥座敷

お店に入ってすぐの席は先客でいっぱいになっていたので、奥座敷へ案内された。床は板の間。かなり広い。奥座敷にも先客が一組座っていた。部屋はどことなく懐かしい雰囲気の漂う古民家蕎麦屋といった感じだ。

きょうは少々お時間がかかります。

奥座敷

座敷の端っこのテーブルに座った。若い女性スタッフが、お冷やとおしぼりを持ってきた。「そばづくし」と「そばがきしるこ」を注文。「そばづくし」は、こしがや愛されグルメにも認定されている、いしいのそば越谷分店の看板メニューだ。「きょうはお店が混んでいまして少々お時間がかかります。申しわけありません」と、申し訳なさそうに戻っていった。

お店が混むことに慣れていないので

張り紙

ここは立ち食い蕎麦屋じゃないんだから待つのもまた一興、なんて思いながら壁に目をやると「お店が混むことに慣れていないので、忙しくなると時間がかかります」という張り紙が貼ってあった(笑)

剣よし、歌よし、気っ風よし!

日活と東映の映画スターのポスター

それじゃのんびり待たせてもらうか、と、あらためて部屋を眺めると、調度品やら映画のポスターやら昭和のにおいのするものがいろんなところに展示されている。「お店が混むことに慣れていないので、忙しくなると時間がかかります」という張り紙の隣には、昭和30年代に黄金時代を築いた映画スターたちの白黒ポスターが貼ってある。今思うと、白黒写真というのもなかなか味わい深い。
 
左上の肩を組んで並んでいる五人の男性は、昭和35年(1960)に「日活ダイヤモンドライン」と命名された日活の看板スターたち。左から、タフガイこと石原裕次郎、マイトガイの小林旭、トニーこと赤木圭一郎、ヒデ坊・和田浩治、エースのジョーこと宍戸錠。五人とも華やかで躍動感にあふれている。しかし今や生きているのは小林旭ただひとりとなってしまった。
 
その下は、昭和37年(1962)年10月に公開された東映映画『花笠道中』のポスター。主演・美空ひばり、共演は里見浩太朗。「剣よし、歌よし、気っ風よし!ひばり里見の江戸っ子コンビ 悪人退治の痛快道中!」。当時、美空ひばりは25歳、里見浩太朗は26歳。ともに東映時代劇の全盛を支えた二大スターであった。

わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。

映画のポスター

壁伝いに目を移動させると、映画のポスターが三枚、貼られている。左端は『男はつらいよ 寅次郎夢枕』。昭和42年(1972)公開。「男はつらいよ」シリーズ10作目の作品で、マドンナ役は八千草薫。当時ボクは高校一年生。新宿松竹に観に行った。寅さんが、再会した幼なじみのお千代坊(八千草薫)から逆ブロポーズされるという、意外な展開だったことを覚えている。
 
真ん中のポスターは、昭和38年(1963)公開の大映映画『高校三年生』。出演は、舟木一夫・高田美和・姿美千子・倉石功…ほか。舟木一夫のデビュー曲「高校三年生」のヒットによって作られた映画で、ポスターの左上にある「天然色」という文字に時代を感じる。当時、カラー映画は「天然色」と称された。
 
右側のポスターは、男はつらいよシリーズ11作目となる『寅次郎忘れな草』。昭和43年(1973)公開。マドンナ役は、旅回りのキャバレー歌手・リリーを演じる浅丘ルリ子。この映画も新宿松竹に観に行った。同時上映はドリフターズ主演『チョットだけョ全員集合!!』だったが、ドリフの映画はドタバタ喜劇だったこと意外、内容はまったく覚えていない。
 
時代は流れ、石原裕次郎・赤木圭一郎・和田浩治・宍戸錠・美空ひばり・渥美清・いかりや長介・荒井注は、この世を去った。昭和は遠くなりにけり……か。
 
と、そのとき――

お待たせして申しわけありません…

甘納豆

先ほど、注文を取りに来た若い女性スタッフがやってきた。「お待たせして申しわけありません。もうしばらくお待ちください。これは主人からの気持ちです」と、甘納豆が差し入れされた。な~に、こっちは懐かしの昭和の時代に戻って盛り上がっているので、待ってる時間なんてまったく気にならない。

真空管ラジオにブラウン管テレビ発見!

真空管ラジオとブラウン管テレビ

甘納豆とお茶で一服し、引き続き、奥座敷を見学。寅さんの映画ポスターの横に、ナント、真空管ラジオとブラウン管テレビがあるじゃあ~りませんか! どちらも本物。しかも当時のものだ。昭和31年生まれのボクは感涙にむせび泣いた。
 
真空管ラジオのメーカーはナショナル。「NATIONAL 2BAND SUPER」とあるので、おそらく昭和30年代のものと思われる。ブラウン管テレビのメーカーも同じくナショナル。形状からみて昭和33年(1958)に製造された白黒テレビ T-14R1 ではないだろうか。60年前の真空管ラジオとブラウン管テレビにお目にかかれたなんて、驚き桃の木山椒の木!

奥の部屋は昭和レトロ展示室

囲炉裏部屋

座敷の奥にもうひと部屋あった。広さは10畳ほど。部屋の中央に囲炉裏がある。ここにもいろいろと昭和のにおいのするものが展示されている。さながら昭和レトロ展示室。
 
棚の上段・中央には、懐かしのボンカレーの箱。ボンカレーを持って微笑んでいるのは女優の松山容子さん。ボンカレーは昭和44年(1969)に世界初の市販用レトルトカレーとして全国デビューした画期的な商品だった。「3分間待つのだぞ」「じっと我慢の子であった」なんてCMもあったっけ……。
 
そのほかグリコキャラメルの箱。しかも女の子用だ。となると、昭和42年(1967)ごろのものと思われる。赤い明治ドロップ缶もある。棚の中段・中央にある木製の置き時計は昭和30年代のものだろう。そして棚の下には黒電話。懐かしの昭和のオンパレードだ。この部屋を見られただけでもいしいのそば越谷分店に来た甲斐があった。

馬とか、ベコでいらっしゃった方へ

張り紙

部屋の壁に「馬とか、ベコでいらっしゃった方へ 駐車場と水飲み場有ります。」と書かれた張り紙があった。そんじは、次は馬に乗って来でみっぺが。

と、そこへ――

うめぇがら、食ってみらんしょ!

料理(そばづくし)

「お待たせしました~!」の声とともに料理が運ばれてきた。
 
今回、注文したのは「そばづくし」。そばがき・そば団子・そばがきの味噌炙り焼き・そばがきの揚げだし・十割蕎麦が楽しめるという、そば好きには魅力的なメニューだ。お品書きに「うめぇがら、食ってみらんしょ!」と、会津弁で書いてある。
 
そんじは、食ってみっぺが。

そばがき

そばがき

最初に運ばれてきたのは、そばがきとそば団子。まずは、そばがきからいただく。食感はもちもち。食べるとそばの風味が口の中いっぱいに広がる。こんな食感と風味のあるそばがきを食べたのは久しぶりだ。

そば団子

そば団子

続いては、そば団子。団子状に丸めたそば粉にきな粉がたっぷりまぶしてあって、黒蜜がちょこっと添えられている。食感は、すいとんに近い。味はもう見ただけで分かる。きな粉と黒蜜という甘味界の二大名脇役を従えたそば団子、まずかろうはずがない。

あまりのおいしさに、お土産に持ち帰りをお願いしようと思ったが……

張り紙

壁に「お持ち帰りができない名物そばだんご」と張り紙が貼ってあった。残念。

おしんこ

白菜のおしんこ

サービスのおしんこ(白菜)をいただきながら次の料理を待った。

そばがきの味噌炙り焼き

そばがきの味噌炙り焼き

続いて運ばれてきたのは、そばがきの味噌炙り焼き。円形に平たく伸ばしたそばがきを炙って、くるみ味噌がたっぷり塗ってある。それがしゃもじの上に載っている。五平餅のような香ばしい風味がなんともいえない。甘辛のたれがこれまたおいしい。これ、平串に刺して五平餅のようにして、道の駅とかで売ったら、かなり売れるんじゃないか。

そばがきの揚げだし

そばがきの揚げだし

小鉢に入っているのは、そばがきの揚げだし。揚げだし豆腐のそばがき版だ。つくねボールのような形をしているのがそばがきの揚げだし。外はサクッと、中はしっとりとやわらかい。かみしめるとそばの香りが鼻に抜ける。出汁との相性もいい。これはなかなかの逸品だ。

十割蕎麦

十割蕎麦

そして真打ち登場。十割蕎麦が運ばれてきた。ザルではなく蕎麦椀に盛られている。切り口がなんともいえず美しい。そばは、100パーセントそば粉だけで打った十割そばだ。
 
まずは箸で三本ほどつまんでそのままいただく。舌先にそば粉の粒子のつぶつぶ感。かんだときのもちもち感。そして口の中に香りが広がって鼻から抜けていく。お世辞抜きに旨い。店主が魂を込めて蕎麦を打っているのが伝わってくる。
 
続いて、塩をぱらぱらっとかけて塩そばでいただいたがこれまた旨かった。そば本来の甘みが味わえた。あまりに旨かったので、盛られたそばの三分の二を塩で食べてしまった。残りの三分の一は、そばつゆで。最後はそば湯。これまた旨かった。

そばがきしるこ

そばがきしるこ

そば湯を飲み終わってほどなく、別注の「そばがきしるこ」が運ばれてきた。おしるこの中に、丸餅のように丸められたそばがきが三つ入っている。食感は餅よりは固めだがもちもち感がある。あんことそばがき。意外な組み合わせだがこれはいける。蕎麦屋ならではの甘味として三つ星を進呈したい。

俺は待ってるぜ

そばがきしるこ

食った食った。さてと、そろそろおいとまするか。そばも料理もうまかった。懐かしの昭和30年代にも戻れたし、また来てもいいかなと、席を立ったとき、石原裕次郎主演の日活映画『俺は待ってるぜ』(昭和32〈1957〉年)のポスダーが目に止まった。裕次郎に、俺は待ってるぜ、と言われちゃったら、また来るしかないな(笑)

本日そば失敗しました。

看板(本日、そば失敗しました。)

会計をすませ、店主に、入口に「そば、しっぱいしなければあります。」の看板が掛けてあるが、そば打ちを失敗することは一年に何回ぐらいあるのか、聞いたところ、「ここ数年はありません」とのこと。当初は、一年に三、四日は、失敗して店を開けなかった日が実際にあったそうだ。「そのときはこの看板を店の前に掛けました」と言って、「本日そば失敗しました。」と書かれた看板を見せてくれた。

いしいのそば本店は福島県喜多方市

いしいのそば越谷分店。分店というからには本店があるはずだ。本店はどこにあるのか訪ねたところ、本店は福島県の喜多方市(山都町宮古)にあるとのこと。なるほど、メニューや張り紙に会津弁が書かれていたのは、本店が福島だったからか。

本日、そば売り切れました。

いしいのそば越谷分店

午後1時半。店を出る。入口に「本日、そば売り切れました。店主」の看板が掛けられていた。年配の夫婦が一組やってきたが、「本日、そば売り切れました。」の看板を見て、残念そうに帰っていった。
 
いしいのそば越谷分店、うんめぇ、そば屋だった。

いしいのそば越谷分店|営業情報

住所は、埼玉県越谷市神明町3-152-2( 地図 )。郵便番号 343-0805 。駐車場は店の前に三台ほど駐められるスペースがある。定休日は月曜日と第三火曜日。月曜日が祝日の場合は翌日の火曜日が休み。電話番号は 048-965-7348 。営業時間は、昼の部が11時半から14時、夜の部は17時から21時だが、埼玉県の新型インフルエンザ等対策特別措置法における緊急事態措置の実施期間中は、平日は夜の部は休み。詳しくはホームページで。

ホームページ

いしいのそば越谷分店では、名物・そばづくしのほかにもさまざまな料理が楽しめるほか、地酒や焼酎なども数十種類用意されている。詳細はホームページで確認してほしい。店に行く前は営業時間と道案内も要チェックだ。