越谷市宮本町二丁目にある高柳亭(こうりゅうてい)。知る人ぞ知る町中華の隠れた名店だ。この道50年のご主人が作る料理は懐かしい昭和の味がする。この伝統の味に魅せられたボクは常連客の新参者として毎週お店に通っている。麺類・ご飯類・定食・一品料理……。豊富なメニューの中から、まずは中華ご飯類メニュー全13品を食べ尽くし、高柳亭の魅力を余すところなくお伝えする。

中華丼

中華丼

中華丼というと、どうもなんだか中華メニューの中では地味な存在だ。とくに男性はほとんど注文しない。映画でいえば主役はおろか脇役にも名前が載らない。ま、いってみればエキストラ的な立場にある。
 
注文されたとしても、え~と(仕方ない)今日は中華丼でいいや、と、「でいいや」と言われる。ボクはつねづねこうした中華丼に対するむげな扱いに同情の念を抱き続けてきた。注文されるたびに「でいいや」と言われる中華丼を思うと胸が痛んだ。
 
今回、中華丼を注文するにあたり、ボクは、もうお前しかいない、お前なくしては俺の人生は立ち行かない、頼む、俺といっしょになってくれ、と、そんな思いを込めて、高柳亭のご主人に「今日は中華丼をお願いします!」と、力強く言った。

中華丼よ、お前こそが“中華のドン”だ

中華丼|定食

ボクのその熱い思いに応えるように中華丼が運ばれてきた。シイタケ・ニンジン・海老・キクラゲ・タケノコ・カマボコ・玉ねぎ・チンゲンサイ・豚肉・鶏肉・イカ・ウズラの卵…。中華料理の主役となるべく具材たちがすべて脇役となって、主役の中華丼を支えている。もうこれからは中華料理のエキストラとは言わせない。中華丼よ、お前こそが“中華のドン”だ。

麻婆丼

麻婆丼

ボクが麻婆豆腐という料理を知ったのは昭和54年。今から42年ほど前になる。NHKの「きょうの料理」で、故・陳建民(ちんけんみん)さんが作っていたのをたまたま見て知った。聞き手はたしか宮本隆治アナウンサーだったと記憶している。
 
ボクは、陳建民さんの語り口が好きで、陳建民さんの出演する日は「きょうの料理」をよく見ていた。当時ボクは23歳で一人暮らし。部屋のテレビは白黒だったが、陳建民さんの麻婆豆腐がおいしそうで、一度食べてみたいと思った。
 
翌日、アパート近くの中華屋に行ったが、麻婆豆腐はメニューになかった。その年の冬、会社の同僚たちと横浜中華街の市場通りにある四五六菜館(しごろくさいかん)というお店に行き、はじめて麻婆豆腐を食べた。ついでにそのときフカヒレスープと杏仁豆腐も生まれてはじめて食べた。四五六菜館の麻婆豆腐はおいしかったが、ボクがテレビで見た陳建民さんの作った麻婆豆腐とはどこか違うような気がした。

陳建民さんの麻婆豆腐を彷彿させる味

麻婆丼|定食

あれから42年。今回、高柳亭で麻婆丼を食べたが、とっても美味しく、なぜか懐かしい味だと思った。42年前、NHKの「きょうの料理」で、陳建民さんが作った麻婆豆腐はこの味ではなかったのか、と、そんな気がした。厨房にいる高柳亭のご主人と故・陳建民さんの顔がだぶった。
 
「そうそう、ボクが作ったあのときのマーボー豆腐、この味よ」と、耳元で陳建民さんの声が聞こえた(ような気がした)

かつカレー

かつカレー

今回は、カレーライスにしようか、かつ丼にしようか、迷いながらテーブル席に座る。カレーライスとかつ丼の両方は無理だしなぁ…と、メニューをみると、ナント、カツカレーがあるじゃあ~りませんか。ということで今日はカツカレーにした。
 
運ばれてきたカツカレー。カツが大きい。かつ丼のカツよりもひとまわりは大きいんじゃないかと思えるくらいカツがデカい。
 
学生時代に学食で食べたカツカレーのカツがコロッケよりも小さかったこと、カツが駄菓子のビックカツのように薄かったこと、そしてカレーの中に肉が見あたらなかったこと、あの学食の貧弱なカツカレーを思い出して涙がこぼれた。

ボリューム満点

かつカレー|定食

高柳亭のカツカレーはボリュームもさることながらお新香と野菜スープと付け合わせ(今日は山芋の千切り)も付いてくる。余裕で完食できると思いきや、カツのボリュームに圧倒され、ギブアップ寸前で、なんとか完食した。
 
カツカレーが大好きなヒトには高柳亭のカツカレーはおすすめだが、なめてかかってはいけない。おなかをじゅうぶんにすかせてから食べること。そうしないと痛い目にあう(笑)

特上かつ丼

特上かつ丼

さてさて高柳亭で今回食べたのはカツ丼。といっても普通のカツ丼ではなく「特上カツ丼」。ご主人に、フツーのカツ丼と特上カツ丼はどう違うのか、聞いてみたところ「肉の厚さと大きさが違う」との返事。これはもう「特上」しかないな、ということで特上カツ丼をいただきました。

カツの分厚い切断面に大興奮!

かつ丼|カツの断面

運ばれてきた特上カツ丼を見てテンションが上がる。そして食べてさらにまたテンションが上がる。衣・肉のやわらかさ・脂身の甘みと旨み・卵のトロリ度具合・かけ汁にまみれたご飯……。どこをとってもおいしい。カツの分厚い切断面を見て大興奮。「特上」を頼んだ者だけが味わえる優越感だ(笑)
 
カツ丼を食べている最中に出前の電話が鳴った。トンカツ定食とハムカツ定食の注文らしい。どうやら高柳亭は、揚げ物も人気のようだ。ハムカツ定食というのもチョット気になる。次回はハムカツ定食を頼んでみるか……と思ったが、まずは高柳亭のご飯類メニュー全制覇!ということで、ハムカツ定食は断念した。

炒飯

炒飯

町の中華屋の三大メニューといえば、炒飯・ラーメン・餃子だろう。いいや違う、ニラレバ炒めにラーメン・ライスこそが町中華の三大メューだ!と言い張る御仁(ごじん)もいるかと思うが、今回の主役は炒飯なので、ニラレバ炒めとラーメンライスの御仁には、ちょっと席を外していただこう。
 
さて、伝統の町中華の味を50年近くにわたって守り続けている高柳亭で、何をさておいても、炒飯を食べなければ、高柳亭の味云々を語る資格はない。
 
それに、常連客歴数十年の諸先輩方から「おまえ、高柳亭のメニューをいろいろ SNS にアップしているようだが、炒飯についてのコメントが見られないのはどういうわけだ。おまえホントに高柳亭のファンなのか!」と、叱られそうなので、遅まきながら炒飯をいただいた。
 
高柳亭の炒飯は、卵・紅ショウガ・チャーシュー・ナルト・ワケギ……。色も鮮やか。中華お玉を使って丸く盛られたチャーハンと、鳳凰の絵柄の八角皿との構図もいい。味も文句なし。まさに町の中華屋、王道の味。
 
いつのころからか、「炒飯はパラパラがおいしい♪」などという風潮が広まってきたが、炒飯は誰がなんと言おうと、しっとりのほうが旨い。いいや、ニラレバ炒めにラーメン・ライスのほうが旨い、と、先ほどの御仁が再び割り込んできたが、もう少し、あっちに行っててもらおう。

町中華の炒飯はしっとりにかぎる

八角皿に盛られた炒飯

で、なんだっけ? そうそう、炒飯はパラパラよりもしっとりのほうが旨い、という話。それでですね、屋号に「飯店」とか「菜館」とかが付いている中国料理店のチャーハンは、パラパラでもいいが、町の中華屋の炒飯は、しっとりにかぎる。
 
高柳亭の炒飯はまさに町中華の王道をいく、しっとり味であった。
 
ニラレバ炒めとラーメンライスのヒト、こっちに来て、高柳亭の炒飯、食べてみてください。どうです? 旨いでしょ?

カレーライス

ライスカレー

高柳亭のカレーライスは昔懐かし、昭和のカレーライスそのものだ。お店によってはライスカレーと呼ばれたあの味だ。
 
ドロリとした茶色のカレーソースが、ご飯の上にかけられている。真っ白くてねばりのあるご飯のはしっこには真っ赤な福神漬けが添えられている。カレーの上にグリーンピースがのっかっている店もあった。そして、カレーライスを注文すると、店のヒトが、水の入ったコップにスプーンをさして持ってきた。
 
昔はこういうものをカレーライスと呼んだ。
 
ところがボクのカレーライスの概念が根底から覆された出来事があった。思い起こせば42年前……。
 
23歳のボクは、当時付き合い始めた彼女と仕事帰りに銀座へ出かけた。店の名前は忘れたが、彼女が好きだというおしゃれな店に入った。ボクはカレーライス、彼女はスパゲッティ、デザートにチョコレートケーキを食べた。
 
テーブルに運ばれてきたカレーライスは、ルーが銀色の別の器に入っていた。ライスとルー(カレーソース)が別々になっているのだ。しかもカレーの色が黒い。ライスには干しぶどうとスライスしたアーモンドが載っている。
 
二つに区分けされた小皿には、ジャムみたいなへんてこりんなものが入っている。彼女の話では、ジャムみたいなのはマンゴーチャツネといって、もうひとつはピクルスだという。そして水の入ったコップにはスプーンではなくレモンの輪切りが入っていた。
 
これはカレーライスではない!こんなものをカレーライスと認めるわけにはいかない!ボクは大いに憤慨したが、ここは銀座だし、店員さんは黒のベストに蝶ネクタイしてるし、彼女の前だし、下心もあったし、このやるせない気持ちをぐっとこらえて、異次元のカレーライスを食べた。
 
その後、彼女とは、性格の不一致ならぬ食生活の不一致により疎遠になった。

カレーライスには福神漬け!

カレーライス

話を再び42年後の2021年に戻し、高柳亭のカレーライスをあらためてしみじみと眺める。ドロリとした茶色のカレーソースが郷愁を誘う。そして真っ白なご飯のすみっこに真っ赤な福神漬け。これよこれ、カレーライスには福神漬けなのっ!なにがチャツネだ。
 
そういえば昔は食堂とかでカレーにソースをかけて食べていたおじさんをよく見かけたが、今はまったく見かけなくなった。どうやら絶滅したようだ。

五目炒飯

五目炒飯

高柳亭には「五目」(ごもく)と冠したメニューが三品ある。「五目炒飯」「五目焼きそば」「五目そば」。「五目」とは、五種類の具材を使った料理、という意味ではなく、多彩な具材をふんだんに使った豪華絢爛な料理、という意味で、昭和の時代、五目を冠した料理はメニューの中で燦然(さんぜん)と輝きを放っていた。
 
が、昭和、平成、令和と時代は流れ、「五目」を冠した料理は衰退の一途をたどっている。メニューから「五目」の文字が姿を消してしまった店さえある。今や「五目」は豪華なイメージではなく、「陳腐」なイメージとして受け止められているようだ。
 
ところがどっこい、昭和の町中華の味を守り続けている高柳亭では、「五目」を冠した料理はいまだ健在。衰退どころか、三品もある。五目メニューに憧れた世代としてはうれしいかぎりである。
 
と、高柳亭の五目炒飯が運ばれてきた。

五目炒飯ならぬ海老肉ドレス炒飯

海老肉ドレス炒飯

丸く盛られた炒飯の右半分に、バカでかいチャーシューが三枚、左半分には、これまた得大のむきエビが四尾、貼り付けられている。チャーシューとむきエビが炒飯全体を覆っているので中の炒飯が見えない。
 
海鮮丼の上にA4黒毛和牛肉を敷き詰めた「肉ドレス海鮮丼」というのが話題を呼んでいるが、高柳亭の五目炒飯は、炒飯の上にチャーシューとエビを敷き詰めた「海老肉ドレス炒飯」と呼びたくなる。
 
いっそのこと、「五目炒飯」ではなく、「海老肉ドレス炒飯」と改名すれば、テレビや雑誌、SNS などで話題になるかもしれない。インスタ映え必至。
 
が、しかし、話題になればなったで、新しもの好きの輩(やから)が高柳亭に殺到し、常連客のみなさんに迷惑がかかるから、「海老肉ドレス炒飯」改名案は廃案とし、今までどおり「五目炒飯」の名でいてもらおう。

玉子丼

高柳亭の玉子丼

玉子丼は男性にとって注文しづらいメニューのひとつだ。なんだお前、男のくせに玉子丼なんか食うのか?とさげすまれる。えっ? 玉子丼? 丼物の中でいちばん安いやつ? アハハ!と笑われる。男にとって玉子丼は注文するのに勇気がいる。いやむしろ注文してはいけないメニューなのだ。
 
やだ~、あのヒト、玉子丼なんか頼んでる。出世あきらめたのね。絶対彼女はいないわねと、玉子丼を注文しただけで女性にもさげすまれる。玉子丼を注文しただけで彼女はできないオトコとして烙印を押されてしまうのだ。
 
男たるもの席に座ったらメニューなどには目もくれず、「かつ丼!」と、力強く注文しなければならない。まちがっても玉子丼だけは頼んではいけない。「デキる男は黙ってかつ丼!」。それが男の世界での暗黙のルールなのである(ホントか?)
 
幸いなことに高柳亭の常連客には若い女性はいないので、ボクが玉子丼を注文しても「やだ~、あのヒト、絶対恋愛はできないタイプね」と言われる心配はないが、高柳亭の常連客にはその道に秀でた(または匠とうたわれて引退した)男性が多いので、うっかり玉子丼を注文しようものなら「なんだお前、男のくせに玉子丼なんか食うのか?」とにらまれる恐れがある。
 
なのでボクは、開店時間11時ちょうどにお店に入り、店内に客が誰もいないことを確認してから、小さな声で「あのぉ…今日はですね…玉子丼をお願いしますぅ」と、厨房のご主人にこっそりと伝え、テーブル席のはしっこで、ひとり静かに玉子丼が運ばれてくるのを待った。

玉子丼は見ているだけで心が安らぐ

玉子丼

玉子丼が運ばれてきた。見た目は親子丼となんら変わりはない。とじた卵の下に鶏肉が入っているかいないかの差だけだ。玉子丼をじっくり眺める。とじられた卵の黄身と白身、飴色に炒められた玉ねぎ、中心部分の黒い刻み海苔が彩りを添えている。見ているだけで心が安らぐ。
 
そして玉子丼をひとくち。甘辛のつゆがたっぷり染みこんだご飯と卵の甘い味が相まって親子丼にはない絶妙な味を醸し出している。それにしてもなんてやさしい味なんだ。この「やさしい味」こそが高柳亭の魅力だ。高柳亭の料理をひとことで言うとすれば「やさしい味」。これに尽きる。

お~、ナルトじゃないか!

玉子丼にナルトが!

と、閉じられた卵の中から、白と薄紅色の衣装に身を包んだナルトが恥ずかしそうに顔を出した。「お~、ナルトじゃないか!」
 
「私はいままでずっとあなたが玉子丼を注文してくださるのを待っていました。若いときはカツ丼ばかりのあなたでしたが、年を重ねたあなたがいつかきっと玉子丼を注文してくれると信じてこのときをお待ちしていました」。ナルトのけなげさにボクは涙を流した。
 
昭和、平成、令和と時代が移り、中華屋やそば屋からナルトは消えつつあるが、さすが高柳亭。この道50年は伊達ではない。伝統の味をしっかり、かたくなに守り続けている。
 
高柳亭の玉子丼の主役はナルトだった。
 
とナルト、玉子丼は「ナルト丼」と名前を変えてもいいのではないか。そう思って高柳亭のご主人に提案しようとした矢先、常連客の男性が二人入ってきたので、ボクは玉子丼を食べていたことを悟られないように、650円をそっと払って店を出た。

オムライス

オムライス

高柳亭のオムライス。正直、あまり期待はしていなかった。洋食屋じゃないし、中華屋だし、ま、フツーのオムライスが出てくるのかなと思いきや、トンデモナイ、完成度の高いオムライスが運ばれてきた。卵の表面は均一に黄色い。ひび割れとか凹凸も目立たない。形もラグビーボール型に美しくまとめられている。なかなかの出来映えだ。見ただけでテンションが上がる。
 
オムライスは見た目の色合いの美しさとスプーンで二つに割ったときの幸せ感がたまらない。黄色のオムレツと赤いケチャップ。色彩理論の世界では、黄色と赤は人の食欲を刺激する最適な組み合わせといわれている。マクドナルドの企業カラーが黄色と赤を使っているのもこのためだ。また風水的にも黄色と赤の組み合わせは幸運を呼ぶという。
 
高柳亭のオムライスは見てるだけで運気が上がりそうだ。

オムライスの中身はやっぱりチキンライス!

オムライスの中身はやっぱりチキンライス!

高柳亭のオムライスの中身はチキンライス。オムライスの中身はいろいろあるが、やっぱりオムライスの中身はチキンライスにかぎる。鶏肉の入っていないケチャップライスも悪くはないが、やっぱりチキンライスのほうがうれしい。
 
子供のころデパートの大食堂でお子様ランチを食べた昭和世代にとっては、オレンジ色のチキンライスは夢の食べ物だった。プレートの上にはハンバーグや海老フライなどともに、山形に盛られたチキンライス。チキンライスの頂上には爪楊枝と紙で作られた日の丸の旗が立っていた。オレンジ色のチキンライスは、昭和の子供たちにとって、夢と希望と幸せを運んでくれる憧れの食べ物だった。
 
高柳亭のオムライスをスプーンで割ると、チキンライスから夢と希望と幸せが飛び出してきた。

親子丼

親子丼

高柳亭の親子丼は単品でなはい。味噌汁のほか煮物と漬け物まで付いてくる。切干し大根とさつま揚げの煮物。たくあんとキュウリの漬け物にめんたいこ。油揚げ・豆腐・大根・ワカメの味噌汁。ご飯類の部ではなく定食の部に入れてもいい。
 
煮物と漬け物を九谷焼の八寸皿、親子丼を有田焼の円菓子碗、味噌汁を越前漆器に盛り付け、宮内庁御用達・山田平安堂の会席盆に載せれば、親子丼会席と呼んでも異論はない(かもしれない)

やさしい味。そしてナルト

やさしい味の親子丼

さて親子丼の味だか、ひとことでいうと「やさしい味」。このひとことに尽きる。親子丼にかぎらず高柳亭の料理はどれもが「やさしい」。そして「懐かしい」。甘めのつゆがしみこんだご飯がこれまたおいしい。具はのせずに「親子丼の丼」という別メニューにしてもらいたいほどおいしい。
 
卵にまじって顔をのぞかせているのは小さく刻まれたナルトだ。今やナルトは中華メニューの具材から姿を消しつつある。中華食材界の絶滅危惧種にも指定され、令和の時代で地球から姿を消すのではないかと危惧されている。ナルトとは切っても切れない縁で結ばれている昭和世代にとっては深刻な問題である。
 
高柳亭の親子丼でナルトと出合え、昭和世代としてはうれしいかぎりである。

エビ炒飯

エビ炒飯

高柳亭のエビ炒飯は見た目のインパクトがすごい。丸く盛られた炒飯の周囲にむきエビがびっしり敷き詰められている。むきエビの壁に遮られて中の炒飯が見えない。中の炒飯にたどり着くには、むきエビを最低一尾は食べなければならない。
 
それではと、むきエビをひとくち。プリプリだ。エビの抜けた部分をれんげでほじると、主役はエビだけじゃありませんよ、とばかりに、ご飯にまじって卵・チャーシュー・ナルト・ニンジン・グリーンピース・コーンが顔をのぞかせた。
 
高柳亭のご主人に聞いたところ「エビを炒飯全体に敷き詰めるのは遊び心」とか。
 
それならトンカツを敷き詰めたトンカツ炒飯とか、餃子を敷き詰めた餃子炒飯というのもいけるのではないか。オムレツでくるんだオム炒飯はどうだろう。麻婆豆腐をかけた麻婆炒飯とか、カレーをかけたカレー炒飯とか、中華丼の具をかけた中華あんかけ炒飯とかもいけそうだ。

高柳亭インスタ映え炒飯メニューを開発。第一弾は

とそこへ常連客の男性がひとり入ってきて、焼きそばを頼んだ。焼きそばか。焼きそばを敷き詰めた焼きそば炒飯というのが頭に浮かんだが、これはあまりおいしそうな感じはしない。というか見栄えがよくない。
 
SNS 隆盛の今は味より見栄えが重視される時代である。味は二の次。見栄えさえよければ SNS の画像を見て人々が押し寄せる。こんなことでいいのか?と昭和世代のボクは大いに憤慨するが、そんな世の中の風潮を逆手にとって、高柳亭インスタ映え炒飯メニュー開発企画室を立ち上げた。
 
ということで、開発企画室長に任命されたボクは、第一弾として、越谷いちごタウンと提携し、採れたてのイチゴをふんだんに丸ごと敷き詰めた越谷イチゴ炒飯というのを企画会議に提出してみようと思う。
 
えっ? 却下? (笑)

焼肉丼

高柳亭の焼肉丼

今回は焼肉丼を注文。注文したあと、牛肉を使った牛焼肉丼なのか、豚肉を使った豚焼肉丼なのか、どっちのドンなんだろう、まてよ、鶏肉を使った鶏焼肉丼ということもありうるな、でもまさかラム肉を使ったラム焼肉丼ということはないよな、と、あれこれ思い浮かべながら料理ができるのを待った。待つこと10分。運ばれてきた高柳亭の焼肉丼には豚肉が使われていた。豚肉好きのボクにはうれしい。
 
焼肉丼のほかに、山芋とアボカドのわさび和え、がんもどきと厚揚げの煮物、香の物(たくあん・キムチ・刻み紅しょうが)、そして玉子スープまで付いている。この品数の多さもうれしい。ちなみに付け合わせはその日によって替わる。
 
さて、メインの丼に目をやると、丼いっぱいに盛られた豚肉がタレとからまってテカっている。脂身もまたテカっている。肉の合間から顔をのぞかせているピーマン・タマネギ・チンゲンサイもテカっている。なにもかもがテカっている。このテカりもうれしい。顔がほころぶ。さっそくひとくちいただいた。

うんめえ!

焼肉丼

あまりの旨さに思わず「うんめえ!」と叫んでしまった。
 
丼物の魅力のひとつは、つゆをたっぷり吸い込んだご飯のおいしさにある。焼肉丼は、そこに甘辛のつゆをたっぷりからめて炒めた肉のうま味と脂身の甘みがあいまって、口の中が至福に包まれる。焼肉とご飯が別々になっている定食だとこのおいしさは味わえない。
 
好みが分かれるところだが、ボクは、焼肉定食よりもつゆをたっぷり吸い込んだご飯といっしょに食べる焼肉丼に軍配を上げたい。ま、これは好みの問題だ。高柳亭は、焼肉定食、焼肉丼、どっちを食べてもうんめえ!
 
あんちゃも機会があったら、ぜひ、食べてみてくんな。

チキンライス

チキンライス

高柳亭に通い始めて以来、食べてみたいと心に決めていた料理がある。それはチキンライス。ということで、今回はチキンライスを注文した。
 
運ばれてきたチキンライスはケチャップがからんで橙色に染まったお米がテカテカと輝いている。そしてお米の間からは鶏肉があちらこちらで顔を出している。付け合わせの千切りキャベツとレタス。そしてマヨネーズ。もう食べる前から幸せ(笑)
 
味も秀逸。懐かしい味だ。47年前、高校生のとき、部活帰りに立ち寄った中華料理屋でよく食べたチキンライスの味を思い出した。他の部員はオムライス派だったが、ボクはチキンライス派だった。そして必ず大盛りにしてもらった。

再び出会えた昭和のチキンライス

高柳亭のご主人と奥さん

「とてもおいしい。懐かしい味です」と、ご主人に伝えると、「うちの常連さんも同じようなことを言ってくれます。高柳亭の味は懐かしくてほっとする味だって」。47年の時をへて再び出会えた昭和のチキンライス。
 
いつまでも夫婦二人三脚で昔ながらの伝統の味を守り続けてほしい。

食べ尽くした高柳亭の中華ご飯類メニュー全13品

越谷市宮本町・高柳亭の中華ご飯類メニュー

  1. 中華丼
  2. 麻婆丼
  3. かつカレー
  4. 特上かつ丼
  5. 炒飯
  6. カレーライス
  7. 五目炒飯
  8. 玉子丼
  9. オムライス
  10. 親子丼
  11. エビ炒飯
  12. 焼肉丼
  13. チキンライス

中華丼から始まってチキンライスに至るまで、高柳亭のご飯類メニュー全13品を食べ尽くした。正確には、このほかに「かつ丼」もメニューに載っている。そして実際に食べた(写真参照)。特上かつ丼とは、カツの大きさと肉の厚さが異なる(特上かつ丼に使われている肉のほうが大きく厚みがある)が、「かつ丼」と「特上かつ丼」は、ひとくくりして一品とした。
 
ご飯類メニューを制覇したので、次は定食メニューを食べ尽くす予定。

高柳亭閉店

2023年11月20日。高柳亭は惜しまれつつ50年の歴史に幕を下ろしました。ご主人と奥さま、50年間お疲れさまでした。そしてありがとうございました。どうかいつまでもお元気で……。