2023年11月20日。越谷市宮本町二丁目の町中華・高柳亭(こうりゅうてい)が惜しまれつつ閉店。もうあの酢豚や特上かつ丼が食べられないのかと思うとさみしいかぎり。夫婦二人三脚で50年、地元に根ざした高柳亭をしのぶ……。
高柳亭
高柳亭の魅力をひとことでいうなら「やさしさ」。ご主人と奥さまの人柄がにじみでた料理はどれもが懐かしく、やさしい味だった。外観も、内装も、料理も自然体の接客も、高柳亭はすべてが「昭和」。昭和31年生まれのボクがひとりでくつろげる数少ない居場所だった。
外観
高柳亭のシンボルともいえる外観は、越谷市宮本町のランドマークだった。昭和のにおいがする昔ながらの店構え。新橋色(しんばしいろ)のトタン外壁を見るだけで昭和にタイムスリップした。
店内
のれんをくぐると、左手の厨房の前がカウンター席。中央にテーブル席が二客。奥がこぢんまりとした座敷になっている。昭和の町中華はこのぐらいの規模がちょうどいい。ボクは壁側のテーブル席に座って、厨房に立つご主人と奥さまの姿を見るのが好きだった。
メニュー
高柳亭のメニューは、麺類・一品料理・ご飯類・定食のほか、スープ類と、お得なセットメニューがあった。メニューに載っていなくても、わがままを聞いて、作ってくれたりもした。
わがままチャーハン
たとえば、チャーハン。メニューにあるのは、チャーハン・エビチャーハン・五目チャーハンの三種類だが、マーボーチャーハン・カレーチャーハン・五目あんかけチャーハンなども頼めば作ってくれた。
料理
高柳亭の料理は、ファミリーレストランやファーストフード店などの外食産業がまだ日本になかった時代、昭和30年代、40年代の町の中華屋さんの味だ。食堂とはまた違った趣がある。
それでは、数あるメニューの中からボクがとくに好きだった料理を振りかえってみよう。
麺類
麺類メニューは23種類。ラーメン、ワンタンメン、味噌ラーメン、うま煮そば……。ボクは麻婆ラーメンと五目あんかけ焼きそばが大好きだった。
麻婆ラーメン
素ラーメンに麻婆豆腐をのせたのが麻婆ラーメン。一度食べて、やみつきになった。高柳亭歴45年の常連・Yさんは、チューハイを二、三杯飲んだあと、麻婆ラーメンを汗だくになって食べるのが常だった。
五目あんかけ焼きそば
高柳亭の五目あんかけ焼きそばは、具だくさんだった。カマボコ・シイタケ・キクラゲ・エビ・ニンジン・もやし・タケノコ・チンゲンサイ・ハクサイ・豚肉・イカ・キャベツ・鶏肉・玉ねぎ・ウズラの卵……。器の両脇に添えられているカラシと紅ショウガが、味に変化をもらたしてくれた。
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一品料理
一品料理は21種類。イチバン人気は餃子。ビールのおともに、ラーメンやチャーハンとセットにして食べるお客さんが多かった。ボクは、酢豚とレバ唐揚げが好きだった。
酢豚
高柳亭の酢豚は秀逸だった。高柳亭の全メニューの中から好きな料理をひとつだけ選べといわれたらボクは酢豚を選ぶ。それほど好きだった。なかでも酢豚の豚肉はたまらなく旨かった。できることならもう一度食べたい……。
レバ唐揚げ
レバ唐揚げは、レバーの唐揚げ、略して「レバカラ」。サクッと揚がった衣にやわらかいレバーの食感がよかった。レバーは好きじゃないんだけど、高柳亭のレバカラは好きなんだよね、という常連さんもいた。
ご飯物
ご飯物のメニューは13種類。お客さんに人気があったのはチャーハンとカレーライス。出前では親子丼の注文も多かった。ご飯物の中でボクが好きだったのは、チキンライスと特上かつ丼。
チキンライス
高柳亭のチキンライスは、ボクら昭和の子どもたちがデパートの大食堂で食べた憧れの味そのものだ。高柳亭のオムライスファンも多かったが、ボクはチキンライス派だった。
スキンヘッドで巨漢の常連男性が、大好物のチキンライスをカウンター席で背中を丸めながらおいしそうに食べている姿は、なんともほほえましかった。
特上かつ丼
そして特上かつ丼。メニューにはふつうの「かつ丼」もあるが、ボクは必ず特上かつ丼を食べた。高柳亭のご主人が厳選した豚肉のナントカという部位を使っているので、肉はやわらかく、脂身もうまい。高柳亭の特上かつ丼を食べると心底しあわせな気持ちになった。
カツカレーも捨てがたい
カツカレーも捨てがたいので、写真だけ載せておく。説明は割愛するけど、おいしそうでしょ? ちなみにボクは、カツカレーのカツは別料金で「特上」にしてもらってました。
定食
定食メニューは10種類だが、一品料理もすべて定食にしてもらえた。定食では、3種類の揚げ物(アジフライ・コロッケ・ハムカツ)が楽しめるミックスフライ定食が人気だった。ボクは、特上とんかつ定食と、特上かつ煮定食が好きだった。
特上とんかつ定食
高柳亭のご主人の揚げ物はピカイチだった。中華屋ではなく、とんかつ屋でも成功したんじゃないか、と思うほど、高柳亭のご主人が揚げるとんかつはうまかった。
高柳亭のとんかつは「ふつうのとんかつ」のほかに「特上」もあって、しかも値段は150円しか違わないので、ボクは、とんかつ系の料理を頼むときは、すべて「特上」でお願いした。
ご主人のとんかつがいちばん堪能できたのは「特上とんかつ定食」。サクサクの衣、やわらかい肉、そしてなんといっても脂身の甘みと旨さが絶品だった。
特上かつ煮
かつ煮もとんかつに引けを取らない旨さだった。肉はもちろん「特上」。高柳亭のかつ煮定食はご主人と奥さまの「やさしさ」が、ぎゅ~っと凝縮されているような、なんとも心があたたまる逸品だった。
酢豚同様、できればもう一度食べたかった。
特注イカメンライス
揚げ物で、ご主人にお願いして作ってもらっていた裏メニューがある。その名は「イカメンライス」。学生時代、大学通りの商店街にあった定食屋の人気メニューだった。
イカフライとメンチカツが同時に食べられるイカメンライス。19歳から22歳までの4年間、週に三日は食べた懐かしい青春時代の味である。
高柳亭のメンチカツは奥さまお手製で、これがまた、とんでもなくうまい。そしてデカい。とんかつと見間違えるほどデカくて美味。高柳亭のメンチカツファンはじつに多かった。
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番外|おにぎり
番外として、ぜひとも最後に触れておきたい「料理」がある。それは「おにぎり」。奥さまが握るおにぎりは、ふるさとの母を思い出す、そんな味だった。
種類はうめぼしとおかかの二種類。麺類と相性抜群だった。担々麺とおにぎり、カレーラーメンとおにぎり、麻婆ラーメンとおにぎり……といった具合に注文するお客さんが多かった。
上の写真は、高柳亭の最終営業日に食べた梅干しのおにぎり。このおにぎりの味は生涯忘れることはないだろう。
50年間ありがとうございました
2023年11月20日に、50年間の歴史に幕を下ろした高柳亭のご主人と奥さまを思い浮かべながら、感謝の気持ち込めて、この記事を書いた。
50年間、体調不良で臨時休業したことは一日もなかったという。
Uber Eats の時代、50年間、最後まで、出前をやってくれたことも、地元のみなさんにとっては、高柳亭はなくてはならない存在だった。三世代にわたって高柳亭に通った常連さんも数多い。
越谷から、そしてボクの前から、またひとつ昭和の灯が消えたのかと思うと、とてもさみしい。
今年で80歳を迎えたご主人。ひと段落したら、ご主人の生れ故郷・宮崎に帰って、奥さまと二人で次の人生を歩むそうだ。
高柳亭のご主人と奥さま。
50年間お疲れさまでした。
そしてありがとうございました。
いつまでもお元気で……。
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越谷市に引っ越してきて40年。ずっと気になっていた中華屋がある。過去、何度かお店の前を通ったのだが、躊躇しては帰ってきた。令和2年10月27日。ついにそのお店に行ってきた。店の名前は高柳亭(こうりゅうてい)。場所は越谷市宮本町二丁目。越谷健美の湯から200メートルほど北に向かった先にある。