越谷市神明町の越谷街道沿いを歩くと、黄色い看板が目に飛び込んでくる。力強い筆致で書かれた「山楽食堂」(さんらくしょくどう)の文字。どこか懐かしい。今回は、昭和の面影を色濃く残す名店で食べたカツカレーを紹介する。
山楽食堂

青空に映える白い外観と、入り口に掲げられた赤い暖簾(のれん)。店先には赤い自販機と、手入れの行き届いたプランターの花々が並び、その飾り気のない風景が、この店が積み重ねてきた時間を物語っている。
圧倒的なメニュー数

一歩足を踏み入れれば、そこはもう「昭和」の特等席だ。
壁一面に整然と貼られた手書きのお品書き。ラーメン・定食・丼物……。圧倒的な種類に、一瞬どれを頼むべきか迷いが生じるが、今回の目当ては決まっていた。
カツカレー

注文したのは「カツカレー」。卓上にはソース・醤油・七味、そしてコショウ。使い込まれた調味料セットが、主役の登場を静かに待っている。
昭和の最大公約数

運ばれてきたカツカレーをひとめ見て、心の中で小さく膝を打った。(これこれ、これですよ)。これこそが、ボクが、かつて町中の食堂で出会い、恋したカレーの姿そのものだ。
まずはひとくち。口の中に広がるのは「懐かしさ」という名のスパイス。こりすぎたスパイスの主張とか、昨今のはやりである激辛といった要素は、まったくない。
玉ねぎの甘みと出汁(だし)の旨みが溶けあったような、深く、やさしい、安心感に満ちた味わい。スプーンが止まらなくなる魔力のような安定感がある。
これぞ、昭和30年代から40年代、日本中の町角にあった食堂が共通して持っていた、いわば「昭和の食堂の最大公約数的なカレー」だ。
なにもかもが「ちょうどいい」

そして、主役のカツ。このカツがまた心憎いほどに「ちょうどいい」
カツは、大きすぎず、小さすぎず、厚くもなく、薄くもない。食べやすいサイス。肉は驚くほどやわらかい。
今は「厚さ◯センチ!」といったボリュームを売りにする店も多いが、山楽食堂のカツは違う。あくまでカレーとライス、そして食べる人の呼吸に寄り添う、完璧なバランスの上に成り立っている。
最高のぜいたく

箸でカツを持ちあげると、きめ細やかな衣がルーをほどよくまとい、口へ運ぶとサクッとした食感のあとに、肉の旨みがじゅわっと広がる。
この「食べやすさ」こそが、日常のご馳走に求められる最高のぜいたく。
福神漬けの赤がアクセントを添えるひと皿を平らげるころには、おなかだけではなく、心までじんわりと満たされていた。
最後に

山楽食堂のカツカレー。それは、奇をてらうことのない、誠実な手仕事の結晶だった。時代の流れとともに、街の景色は刻一刻と変わっていく。が、山楽食堂には「昭和の食堂の最大公約数」が今も大切に守られていた。
営業情報

山楽食堂(さんらくしょくどう)の住所は、埼玉県越谷市神明町2-384( 地図 )。場所は、越谷市西中学校の南。草加バイパス「神明町」交差点から100メートル。越谷街道沿いにある。
営業時間は、昼の部が、午前11時半から午後2時。夜の部は午後5時から9時。定休日は金曜日。ホームページや SNS のアカウントはない。





