北越谷駅西口にあるレトロな喫茶店・パーラー鯉(こい)。創業は昭和55年(1980年)。時代の流れに迎合することなく王道の喫茶店メニューを夫婦で守り続けている。名物はパフェ。全5品。すべていただいた。昭和のパフェは健在だった。
独断!昭和のパフェ三大条件
話を進める前に、昭和のパフェの定義づけをしておく。あくまでも独断なので、的を射ている、とは言えないかもしれないが、当たらずといえども遠からず、とはいえる。ま、どっちでもいいか、独断なんだし。
ボクが思うに、昭和のパフェと認定する条件は、以下の三つだ。
- 枝付きのサクランボが載っている
- アンゼリカが入っている
- グラスの底に原色のシロップ
第一条件|枝付きのサクランボが載っている
これはもう絶対条件。パフェに枝付きのサクランボが載っていないと、昭和世代のおじさん(もうおじいさんか)は、どうもなんだかしっくりこない、というか、許せない。
なにィ、パフェにサクランボが載ってないだァ、そんなもんパフェと呼べっか、責任者出てこい!と、怒り出す。枝付きのサクランボは昭和の子どもたちにとって憧れの的だった。
加山雄三の若大将シリーズに登場する澄子さん(星由里子)のような存在だった。
第二条件|アンゼリカが入っている
アンゼリカも昭和のパフェには欠かせない。
最近は、アンゼリカって何? と言うヒトがほとんどだろうが、ひとことで言うと「鮮やかな緑色をした先がとがった葉っぱのように薄くスライスしてある固めの甘いゼリーでフキの砂糖漬けとも呼ばれる」と、ひとことで言うには、やや無理があったが、
ま、それはそれとして――
パフェでは、どちらかというと、アンゼリカは味付けというよりも彩りとして使われている。鮮やかな緑色のアンゼリカが入っていると、昭和世代のおじさん(おじいさん)たちは、テンションが上がる。
昭和のパフェには欠かせない名脇役だ。V9時代の巨人軍でいえば「二番、セカンド・土井」といったところか(二番、セカンド・土井、わかるかなぁ、わかんねぇだろうなぁ)
第三条件|グラスの底に原色のシロップ
パフェグラスの底に緑や黄色など原色のシロップが少し入っているのも昭和のパフェの特徴。昭和世代のおじさん、ではなく、おじいさんたちが子どものころ、パフェグラスの底で光輝く原色のシロップを見て、目を輝かせた。
早くこのシロップをスプーンですくって飲みたい、でもパフェは(一年に一回食べられるかどうかだから)ゆっくり少しずつ味わって食べたい、と、気持ちが揺れ、小さな胸が痛んだ。
ちなみにパーラー鯉ではかき氷のシロップを使っている。
次点|飾り切りされたリンゴ
飾り切りされたリンゴも昭和のパフェに花を添えた。
昭和の子どもたち、すなわち、大人になったボクたち、じゃなかった、おじいさんになったボクたちは、パフェに載っているウサギさんの耳のようにカットされたリンゴに心ときめかせた。パフェのうさぎリンゴを見ると、ぴょんぴょんと心が跳ねた。
ただし、飾り切りされたリンゴは、パフェの種類によっては、なくてもいい場合もある。たとえばピーチパフェとかバナナパフェだ。
ピーチパフェとかバナナパフェの場合は、うさぎさんリンゴが載っているかどうか、ということよりも、ピーチやバナナがたっぷり惜しげもなく使われているかどうか、のほうが重要度が高い。
なので、飾り切りされたリンゴについては昭和のパフェの絶対条件からははずしたが、ないよりは、あったほうが、昭和世代のおじいさんたちにとってはうれしいものだ。
昭和のパフェ健在!パーラー鯉のパフェ全5品
さて、長々と、昭和のパフェの三大条件について論考したところで、パーラー鯉のパフェを紹介する。
どのパフェも昭和のパフェ三大条件をすべて満たしているという、昭和を代表する女優でいえば、山本富士子とか若尾文子とか若林映子(若林映子は個人的好みで入れた)のような魅力あふれる美しい容姿である。
パーラー鯉のパフェは全部で五品
- フルーツパフェ
- チョコレートパフェ
- バナナパフェ
- ピーチパフェ
- パイナップルパフェ
まずはフルーツパフェからいただきますか。
フルーツパフェ
パーラー鯉のフルーツパフェは、昭和のパフェ三大条件のみならず、次点の飾り切りリンゴ(うさぎりんご)も載っているという完璧さ。クイーンオブ昭和パフェの称号を贈るにふさわしい逸品である。
英国でいえば、故・エリザベス女王、日本でいえば上皇后(美智子さま)。これについては異論を挟む余地はない。意義あり!という声はとりあえず黙殺。
天香国色
パーラー鯉のフルーツパフェの容姿を四字熟語で表現するなら「天香国色」(てんこうこくしょく)。国中でいちばんの美しさと、天のものかと思うほどの香り高い気品を兼ね備えた女性の意。
パフェの上にさんぜんと輝く枝付きサクランボ、生クリームに刺さったコバルトブルーのアンゼリカ。生クリームのうしろでは、うさぎさんリンゴがかわいい耳を立てている。そしてグラスの底には緑色のシロップ。
果物は、パイナップル・りんご・みかん・バナナ……。そしてバニラアイスにオレンジシャーベット。文句のつけようのない見事な容姿は、まさに天香国色。昭和パフェの女王だ。
果物は缶詰
そうそう昭和のパフェで使われている果物は缶詰が多い。パーラー鯉のフルーツパフェに使われている果物もバナナ以外はすべて缶詰。昭和のパフェはこれでいいのだ。
チョコレートパフェ
続いてチョコレートパフェ。昭和のパフェ三大条件をすべて兼ね備え、昭和55年(1980年)創業以来、42年間にわたって女性客に圧倒的な支持を得ているパーラー鯉の人気メニュー。
英国でいえば、故・マーガレット王女、日本でいえば皇后陛下(雅子さま)、といったところか。故・マーガレット王女については異議を唱えるヒトもいるかもしれないが、若き日のマーガレット王女の写真を見れば、異議を撤回するであろう。
光彩奪目
パーラー鯉のチョコレートパフェを四字熟語でたとえるなら「光彩奪目」(こうさいだつもく)。美しく光り輝き、見る者をうっとりさせる女性のこと。
この美しい姿に心を奪われ、パーラー鯉のチョコレートパフェを食べたいがために県外から訪れる客もいると聞く。
赤いサクランボに黄色いみかん、そして緑のアンゼリカ。鳥の子色のバニラアイスに茶色いチョコアイス。まっ白い生クリームには焦げ茶色のチョコレートソースがかかっている。グラスの底には黄色いシロップ……。
きらびやかな美しさは、まさに光彩奪目だ。
ピーチパフェ
三番目はピーチパフェ。意外とファンが多いパーラー鯉の隠れた人気メニュー。枝付きサクランボ・アンゼリカ・グラスの底の原色シロップ、という昭和のパフェ三大条件を実直に守っている。
英国でいえば、故・ダイアナ元妃、日本でいえば佳子(かこ)さま、か。ピーチパフェのみずみずしい美しさは、故・ダイアナ元妃と佳子さまを彷彿(ほうふつ)させる。
二人ともミス・ピーチパフェの称号にふさわしい美しさだ。
羞花閉月
パーラー鯉のピーチパフェを四字熟語で形容するなら「羞花閉月」(しゅうかへいげつ)。あまりの美しさに、花は恥じらい、月は隠れてしまう、の意。
なんといっても缶詰の桃をふんだんに使っているのがいい。ここにパーラー鯉のご主人の心意気を見てとれる。
まっ白な生クリーム、鳥の子色のバニラアイス、桜色のストロベリーアイス、若緑のアンゼリカに真っ赤な枝付きサクランボ。そして、橙色(だいだいいろ)のピーチがセンターを務める。
おっと、忘れるところだった、グラスの底では黄色いシロップが花を添えている。
フルーツパフェやチョコレートパフェほどの派手さはないが、清楚な美しさが、ピーチパフェの魅力といえよう。
バナナパフェ
四番目はバナナパフェ。
バナナは今でこそ手軽に食べられるようになったが、昭和の時代、バナナは子どもたちには高嶺の花だった。風邪で高熱が出たりしたときにだけ、親が買ってきてくれた。ただし一本は食べさせてもらえなかった。半分食べられれば、いいほうだった。
なので、バナナがふんだんに使われているパーラー鯉のバナナパフェを目にすると、ボクら昭和の子どもたちは、興奮を抑えきれない。枝付きサクランボ、アンゼリカ、グラスの底のシロップと、昭和パフェの王道をいっている。
英国の皇室でいえば、キャサリン妃、日本でいえば承子(つぐこ)さま。
えっ? 承子さまって誰? 高円宮家の長女? あ~、あの女性ね。それなら知名度の高い紀子(きこ)さまでいいんじゃない? というヒトもいるかと思うが、ここは、ボクの好みをごり押しし、ミス・バナナパフェ、日本の皇室側は承子さまに決定。
仙姿玉質
パーラー鯉のバナナパフェ。四字熟語で表現するなら「仙姿玉質」(せんしぎょくしつ)。優雅で宝石のように美しい女性の意。
色合いは他のパフェと比べると地味感はいなめない。真っ赤なサクランボ以外は、生クリームの白、バニラアイスの鳥の子色、ストロベリーアイスの桜色、主役のバナナも練色(ねりいろ)というか、淡色だ。
そこに多少ながら彩りを添えているのが若緑のアンゼリカ。やっぱり昭和のパフェにはアンゼリカは欠かせません。
パイナップルパフェ
五番目、トリを飾るのはパイナップルパフェ。
ピーチパフェでは缶詰のピーチが使われたが、パイナップルパフェでは缶詰ではなく生のパイナップルが使われている。しかも惜しげもなく分厚くカットされている。ここにパーラー鯉のご主人のこだわりが感じられる。
英国の皇室でいえば、メーガン妃、日本の皇室では愛子(あいこ)さまが、ミス・パイナップルパフェと呼ぶにふさわしい。
年を重ねるごとに知性と美しさが磨かれていく愛子さま。成人し、国民の評価も高まった。パイナップルパフェも愛子さまのように、何かのきっかけで、評価が高まる日がくるかもしれない。
曲眉豊頬
パーラー鯉のパイナップルパフェに、ふさわしい四字熟語は「曲眉豊頬」(きょくびほうきょう)。美しい眉と、ふっくらとした頬(ほお)をした女性の意。
「美しい眉」(曲眉)と「ふっくらした頬」(豊頬)は、古代中国では美人の条件とされた。パーラー鯉のパイナップルパフェでいえば、曲眉はアンゼリカ、豊頬はバニラアイスとストロベリーアイス、といったところか。
ちょっと待った! 曲眉豊頬にたとえておきながら肝心のパイナップルが出てこないじゃないか、という声が聞こえてきましたが、そこは、どうかひとつ、ながーい目で見てやってください。
おまけ|アレンジフラワー
パフェではないが、パーラー鯉には「アレンジフラワー」と称するデザートがある。プリンアラモードに近い。プリンの上の生クリームにアンゼリカが刺さっていて、生クリームの上には枝付きサクランボが載っている。
昭和のパフェ三大条件のうち「枝付きサクランボ」と「アンゼリカ」の二条件を満たしているので、パーラー鯉のアレンジフラワーは昭和のパフェの姉妹といったところだ。
百様玲瓏
プリンカップの中央に、生クリームとサクランボとアンゼリカでデコレーションされたプリン。そのまわりをバナナ、缶詰のパイナップルとみかん、そして、絞った生クリームが載ったバニラアイスとストロベリーアイスが、プリンを包みこむように飾り付けられている。
じつにきらびやか。四字熟語でたとえるなら「百様玲瓏」(ひゃくようれいろう)。いろいろな美しい宝石が散りばめられている様子の意。
ま、いってみれば、
パーラー鯉のアレンジフラワーは、昭和パフェ界の宝石箱や~
パーラー鯉閉店
2023年7月30日。パーラー鯉はご主人が急逝したため閉店しました。ご主人のご冥福を心からお祈りいたします。まだ奥さまもどうかいつまでもお元気で……。
2023年7月30日。北越谷西口のパーラー鯉のご主人が急逝。昭和55年(1980)創業のパーラー鯉は閉店した。もうあのパフェや料理が食べられないのかと思うとさみしいかぎり。夫婦二人三脚で43年間、地元に根ざしたパーラー鯉をしのぶ……。