越谷市の桜の名所・北越谷元荒川堤の桜並木。昭和31年(1956)の植樹から67年が過ぎ、老朽化により伐採される木も増えてきた。毎年行なわれていた桜まつりも今後は開催されないことが2023年3月に決定。北越谷元荒川堤桜並木の歴史と現状についてお伝えする。

歴史

由来碑|元荒川堤桜並木の由来

北越谷元荒川堤に、元荒川堤桜並木の由来が記された由来碑(※1)が、数箇所に建てられている。由来碑の碑文を抜粋・要約して、北越谷元荒川堤桜並木の歴史をふりかえってみる。

※1 「元荒川桜堤桜並木の由来」平成20年(2008)4月設置 越谷市観光協会 北越谷桜並木保存会(寄贈・文責 宮本町 大野光政)

元荒川の桜の歴史は明治時代までさかのぼる。
日露戦争の戦捷記念

日露戦争の戦捷記念(せんしょうきねん)として、明治38年(1905)に、瓦曽根から寺橋(現・宮前橋)までの土手道に植樹されたのがはじまり。
 
最盛期、元荒川の川面に映える桜は見事だったが、瓦曽根溜井が埋められたり、道路の拡幅などによって、昭和30年(1955)ごろには姿を消した。

興亜の桜

さらに、昭和15年(1940)、越ヶ谷町青年団が寺橋から東武鉄道の鉄橋までの土手に戦意高揚のため「興亜の桜」(こうあのさくら)と名づけ植樹したが、伐採されたりして今はない。

現在の桜並木

現在の桜並木は、昭和31年(1956)に、宮本町の有志たちが桜苗木1,200本を寄贈、元荒川両岸に植樹されたもの。
 
以来、越谷市、越谷市商工会、越谷市観光協会、地元住民の方々の補植ならびに維持管理により愛育され今日に至っている。
 

以上、由来碑の碑文より抜粋・要約

 

現在

北越谷元荒川堤の桜並木

現在は、桜並木は元荒川の左岸側だけだが、昭和50年代ごろまでは、元荒川の両岸に桜並木があった。その後、右岸側(越谷流山線側)の遊歩道(元荒川緑道)を整備するために、神明橋から東武伊勢崎線鉄橋までの間にあった右岸側の桜はすべて伐採された。

露店

露店

両岸に桜並木があった時代は、桜の季節になると、元荒川の両岸に露店が並び、河川敷は多くの花見客でにぎわった。日光猿軍団が来たこともあった。往時がしのばれる。

昭和50年代の桜並木

昭和50年代の北越谷元荒川堤の桜並木

昭和50年代の桜並木(※2)

※2 上の白黒写真(北越谷元荒川堤の桜並木)は『越谷ふるさと散歩(上)』越谷市史編さん室(昭和54年8月2日発行)「大房浄光寺」119頁から転載した。現在写真使用許可を所有機関に申請中

昭和54年(1979)に発行された『越谷ふるさと散歩(上)』(※3)には、北越谷元荒川堤の桜並木について「北越谷を半円形に取り巻く元荒川の堤上には、昭和31年に植木された桜が見事に育ち、桜の名所になりつつある」と記されている。

※3 『越谷ふるさと散歩(上)』越谷市史編さん室(昭和54年8月2日発行)「大房浄光寺」119-120頁

桜並木の現状

北越谷元荒川堤の桜並木

越谷の桜の名所となった北越谷元荒川堤の桜並木だが、植樹から60年以上がたった平成30年(2018)ころから、桜の老朽化をはじめ桜まつりにおける迷惑駐車やゴミの散乱など、さまざまな問題が出てきた。

桜並木の景観が損なわれはじめる

平成31年(2019)、神明橋の補強工事に伴い、土手から重機を元荒川の河川敷に入れるために、重機の通り道となる桜の木が数本、伐採された。

伐採で桜並木が分断

伐採で桜並木が分断

この伐採によって桜並木が分断されてしまった(上の写真の黄色い○印で囲んだ箇所)
 
また、それまでは土手に、ひさしのように伸びていた桜並木の枝も、かなり切られてしまった(下の写真参照)

枝が切られる前後の写真

北越谷元荒川堤の桜並木

上の写真の上部は枝が切られる前(2018年)、下部は枝が切られたあと(2019年)。河川敷まで垂れ下がっていた枝が切られてなくなってしまったのが分かる。
 
これを境に、桜並木の景観が、少しずつ損なわれていく。

水平桜

北越谷元荒川堤の水平桜

神明橋から元荒川の桜並木を上流側に歩くこと約140メートル。幹の部分を切断され、水平に伸びた一本の太い枝だけが残り、太い枝から7本ほどの枝が伸びて、満開の時期には、見事な花を咲かせていた桜があった。
 
その姿に心ひかれたボクは「 水平桜 」と勝手に命名した。

撮影スポットだった

北越谷元荒川堤の水平桜

「水平桜」は、花見客の目を引くので、満開時には写真に撮る人も多く、赤ちゃんを抱っこして、水平桜の前で記念写真を撮る家族も見受けられた。切断された幹の部分にお子さんを座らせて、写真を撮っていた母親もいた。

伐採された水平桜

伐採された水平桜

ところが、2019年(平成31年)3月初旬、つぼみがふくらみはじめていた水平桜が伐採されてしまった。老朽化や病気だったわけではない。元気だったのに……。

伐採前後の水平桜

伐採前後の水平桜

開花を前にして伐採されてしまった水平桜に涙した。伐採後、しばらくして切り株も除去された。

満開を迎えた水平桜

水平桜が伐採される前年(2018年)。満開を迎えた様子を YouTube にアップしたが(上の動画)、このときは、これが水平桜の見納めになるとは思ってもいなかった。

ありがとう水平桜

北越谷元荒川堤の水平桜

ほかの桜は、空に向かって垂直に太く大きく樹齢を重ねていくのに対し、水平桜は垂直に成長することのできない自分の状況を受け入れ、横に伸びるという道を選択し、自らの命を育んでいた。
 
またそのことで、他の桜よりもより存在感のある美しい容姿となって、訪れる花見客の目を楽しませてくれた。

ありがとう水平桜

桜の伐採が始まる

2021年(令和3年)から桜の伐採が始まった。