本記事は、2023年1月31日に越谷市市民活動支援センターで行なわれた越谷市郷土研究会・地誌研究倶楽部主催の講演会と、2023年3月9日の大沢公民館主催事業「歴史探訪講座」で配布した「石仏撮影の楽しみ方」講義資料(レジュメ)に載せられなかった写真および項目を追加した「石仏撮影の楽しみ方 Web版」です。

はじめに

本日は、「石仏撮影の楽しみ方」というテーマで、前半(Ⅰ)と後半(Ⅱ)に分けて、話をさせていただきます。前半は、石仏撮影に必要な基礎知識について。後半は、撮った写真を整理して発信する、という話をいたします。

目次

Ⅰ.石仏撮影に必要な基礎知識
 
 A.どんなカメラを使えばいいのか?
 B.撮影のポイント
  ①目的を明確にする
   (1)記録写真
   (2)造形写真
  ②写す範囲をしっかり決める
   (1)石仏を風景の一部として写す場合
   (2)石仏の像容を中心にする場合
  ③ポジションとアングルを工夫する
   (1)ポジション
   (2)アングル
  ④写すテーマを決める
   (1)石仏の種類を決めて撮る
   (2)場所を決めて撮る
   (3)ひとつの石仏を撮り続ける
  ⑤その他
 
Ⅱ.撮った写真を整理して発信する
 
 A.写真を整理する
 B.写真を発信する
 C.写真展に出展してみる

石仏撮影に必要な基礎知識

石仏撮影に必要な基礎知識では、
 
A.どんなカメラを使えばいいのか?
B.撮影のポイント
 
についてお伝えします。

A.どんなカメラを使えばいい?

どんなカメラを使うかについてですが、結論から申しますと、今、持っているカメラでじゅうぶんです。私はスマートフォン(iPhone13 Pro)を使っています。
 
以前は、2014年2月に発売された Nikon COOLPIX P340(ニコンクールピクスP340) というコンパクトデジタルカメラを7年間使っていましたが、シャッターボタンと電源スイッチが故障し、修理代が 5万円かかるといわれ、2021年12月にスマートフォンに切り替えました。
 
もし新しくカメラを購入したり、買い替えたりする予定があるようでしたら、一眼レフでレンズが交換できるものを検討するのもいいかと思います。予算との相談になりますが……。

B.撮影のポイント

撮影のポイントは四つです。
 
①目的を明確にする
②写す範囲をしっかり決める
③ポジションとアングルを工夫する
④写すテーマを決める

①目的を明確にする

石仏の写真は「記録写真」と「造形写真」の二つに分けられます。どちらを目的にするのかをまず決めます。

(1)記録写真

十九夜塔を兼ねた馬頭観音塔

馬頭観音像付き十九夜塔(南越谷駅そば日光街道路傍)

記録写真は、調査や論考を作成するために、資料として記録することが目的ですので、客観的に石仏の姿形を撮って、碑文や持物(じもつ)も撮影します。正面・背面・側面・台石なども忘れずに写します。周囲の風景も入れた写真も撮っておきます。
 
記録写真は、ちゃんと撮ったつもりでも、整理する段になって、撮り忘れたことに気づくこともあります。右側面を撮っていなかったとか、ちゃんと撮ったつもりだったのに、青面金剛像の持物がピンボケしていたとか……。
 
そういうときは撮り直しに行きます。
 
石仏や石塔は建てられてから年数がたっていますので、写真だけで碑文を読み取るのは、まず無理です。

金石文を調べるには

越谷市の石仏・石塔の碑文や持物は、越谷市郷土研究会・顧問の加藤幸一氏の「越谷の石仏調査報告」に詳しく載っています。「越谷の石仏調査報告」は越谷市立図書館や越谷市市民活動支援センターなどで閲覧できます。
 
『越谷市金石資料集』(※1)でも調べることができます。

※1 越谷市史編さん室編『越谷市金石資料集』越谷市史編さん室(昭和44年3月25日発行)。越谷市立図書館で閲覧可能。「日本の古本屋」でも購入できます。(2023年1月31日現在1冊在庫あり)

『越谷市金石資料集』を日本の古本屋で探す
記録写真の撮り方を調べるには

記録写真の撮り方と記録の仕方については、越谷市郷土研究会・副会長の秦野秀明氏のホームページ「郷土越谷写真集 越谷の板碑・石塔・石仏」( http://hatazoku.c.ooco.jp/index.htm )が参考になります。秦野氏の写真の撮り方と記録のまとめ方に準じてやれば、記録写真については、ほぼ完璧です。

補足|記録写真撮影の必携品

秦野氏から「石仏の『記録写真』を撮るさいには縮尺スケールを使うのが鉄則」とのアドバイスをいただきました。

案内役・秦野氏

縮尺といっしょに石仏写真を撮ることで、石仏の幅や高さの目安にできます。ですので、記録写真を撮るときには縮尺は必ず持って行ってください。

縮尺を入れた石仏写真

青面金剛像庚申塔

縮尺を入れた石仏写真(青面金剛像庚申塔)

秦野氏のホームページに、縮尺を台石の前に置いて撮った青面金剛像庚申塔の写真が掲載されています(上の写真)。ぜひご覧になって、お手本にしてください。

記録写真の撮り方と記録の仕方のお手本

記録写真の撮り方と記録の仕方について、お手本とすべき記事が秦野氏のホームページで公開されていますので、下のバナー(今すく見る)をクリックして、ぜひご覧いただき、教科書にしてください。

推薦図書|石仏調査の必携書
『石仏巡り入門―見方・愉しみ方』日本石仏協会編

書籍「石仏巡り入門―見方・愉しみ方」日本石仏協会編

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1,900円(税別)

石仏を調査・研究している人、これから学ぼうとする人のための手軽な入門書。手元に置いておきたい一冊です。
 
身近に見られる代表的な石仏をはじめ石仏の見方とポイントのほか知っておきたい石仏の基礎知識では主尊の種子や干支・年号表(西暦・元号・干支)など石仏調査に役立つ情報が満載。
 
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専門図書|日本石仏事典
『日本石仏事典』庚申懇話会編

書籍「日本石仏事典」庚申懇話会編

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石仏を調査・研究している人、これから学ぼうとする人のための専門書。これ一冊あれば図書館に行く必要もなくなります。
 
石仏を像容・信仰・形態の部に分類し、美術史・民俗・宗教などさまざまな角度から詳しく解説されています。
 
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記録写真と造形写真の違い

同じ石仏でも記録写真と造形写真は写し方が異なります。記録写真は正確重視。あくまでも客観的に撮ります。造形写真は感性重視。自分の撮りたいように撮影します。
 
大聖寺(越谷市相模町)にある青面金剛像庚申塔を例に、記録写真と造形写真を並べますので、違いを見てください。

記録写真

青面金剛像庚申塔

記録写真。正面から全体が写るようにしっかり撮ります。

造形写真

青面金剛像

造形写真。斜め下から撮って青面金剛像の力強さを表現しました。



それでは、「造形写真」についての解説に移ります。

(2)造形写真

地蔵菩薩

地蔵菩薩像(越谷市小曽川・慈眼寺共同墓地)

造形写真は、主観的に石仏の魅力をとらえて芸術的に表現するのが目的ですので、写す人の個性と感性が決め手になります。撮り方に制約もありません。
 
カメラの機能を駆使しながら、自分なりの写し方ができるようになってくると、石仏撮影の楽しさが、いちだんと深まっていきます。

②写す範囲をしっかり決める

石仏を風景の一部として写すのか、石仏の像容(ぞうよう)を中心に写すのか、どちらにするのかを決めます。

(1)石仏を風景の一部として写す

石塔群

砂原堤防の石塔群(越谷市砂原・元荒川右岸土手)

石仏を風景の一部として写す場合は、石仏の周囲の環境も含め、ときには遠景も入れて、石仏を風景の中でとらえるように撮影します。

(2)石仏の像容を中心にする

青面金剛像庚申塔

青面金剛像庚申塔(東武伊勢崎線・元荒川歩道橋南詰そば:元荒川右岸土手)

石仏の像容を中心にする場合は、石仏の姿や形の全体を写すのか、表情などの一部を切りとって写すのか、石仏と向き合いながら、シャッターを押していきます。
 
まずは全体像を撮ってみる。次に、顔の表情だけにしぼって、正面・右側・左側などいろいろな角度から撮ってみます。

切りとり方で印象が変わる

馬頭観音塔|石塔

馬頭観音塔|座像

馬頭観音|三面

馬頭観音供養塔(越谷市向畑・堂面の観音堂)

同じ正面でも切りとり方で印象が変わってきます。

③ポジションとアングルを工夫する

(1)ポジション

如意輪観音|右から撮影

如意輪観音|左から撮影

如意輪観音|正面から撮影

如意輪観音(越谷市宮本町・迎摂院墓地)

ポジションとは、石仏を撮影するときのカメラの位置のこと。正面・左・右・斜めなど。実際には石仏を中心に360度すべての位置からポジションをとることが可能です。
 
いろいろな角度から撮っているうちに、その石仏の特徴をもっともよくとらえられるポジションが見つかります。

(2)アングル

青面金剛像庚申塔

青面金剛像庚申塔(越谷市相模町・大聖寺)

アングルとは、石仏に対する上下の角度のこと。石仏と水平の場合はアイレベル、石仏を上方から見る角度をハイアングル、下からのぞく角度をローアングルと呼びます。
 
アングルのとり方によって、石仏の表情や雰囲気がガラリと変わるので、いろいろな角度で試してみてください。おもしろい写真が撮れます。

④写すテーマを決める

テーマを決めて石仏の写真を撮っていきますと、楽しみも増しますし、貴重な記録や史料にもなり得ます。

(1)石仏の種類を決めて撮る

自分の好きな石仏や石塔を決めて、それを中心に撮っていきます。

  • 青面金剛像庚申塔
  • 如意輪観音
  • 馬頭観音塔
  • 文字庚申塔
  • 月待塔
  • 地蔵菩薩像
  • 六地蔵
  • 石幢(せきどう)
  • 名号塔
  • 観音菩薩
  • 不動明王
  • 狛犬
  • その他
(2)場所を決めて撮る

自分の住んでいる地区など、場所を決めて、そこにある石仏や石塔をくまなく撮っていきます。出羽地区・荻島地区・大袋地区・花田地区・大相模地区・増林地区……など。
 
または現在の住所表記ごとに。大沢・宮本町・神明町・谷中町……など。
 
みなさんが各自、地元の写真を撮り続けていくことで、それを整理して保存しておけば、後年、貴重な郷土写真集(歴史資料)になります。

(3)ひとつの石仏を撮り続ける

お気に入りの石仏を徹底して撮り続けていきます。季節・天気・時間・年ごとに、石仏の表情の変化を追い続けるのは楽しいですし、それを何年も続けていくと、思いも寄らぬ史料になっていきます。
 
たとえば、道路の拡張工事などで石仏が撤去されたり破棄されてしまったとか、石仏が破損してしまったとか……。そんなとき、その一枚の写真が貴重な史料になります。

⑤その他

石仏

その他、カメラ(レンズ)の絞り・露出・シャッタースピードや光の方向(逆光・順光・側光)などによっても効果的な写真が撮れますが、ここでは説明は割愛します。それぞれお持ちのカメラの機能を調べて、興味のあるかたは、挑戦してみてください。

裏技|色合いを変える

如意輪観音(1)

同じ位置や角度で撮影した写真でも、色合いを変えると、雰囲気が変わります。ちょっとした演出効果が狙えます。

色合いを変えて撮った写真

如意輪観音(2)

如意輪観音(3)

如意輪観音(4)

上の3枚の写真は、わたしのスマートフォン(iPhone13 Pro)の「フィルター」という機能を使って撮ったものです。雰囲気が違って見えるのがお分かりいただけると思います。

越谷市内の石仏撮影スポット

大聖寺の百庚申

大聖寺の百庚申(越谷市相模町)

越谷市内の石仏撮影おすすめスポットを10箇所紹介します。

  1. 大聖寺の赤門参道(相模町)…百庚申・庚申塔
  2. 大聖寺の鐘楼堂裏手(相模町)…喜多向不動と二童子・卍亀碑
  3. 観照院の参道(七左町)…参道の石仏群
  4. 報土院の羅漢像(登戸町)…境内の羅漢像
  5. 天嶽寺入口の庚申塚(越ヶ谷町)…庚申塔と石仏群
  6. 千疋伊奈里神社(東町)…参道および拝殿横の石仏群
  7. 地蔵橋の地蔵堂(大沢四丁目)…石仏群
  8. 光明院(大沢三丁目)…無縁塚・塩かけ地蔵・春暉庵一樹(しゅんきあんかずき)の墓碑・鍋島歌女輔(なべしまかめのすけ)の心中供養墓碑
  9. 石神井神社(西新井)…北西入口付近の石仏群と社殿橫の富士塚
  10. 荻島出津中堤下(山王さま)の石塔群(南荻島)…三猿庚申塔・馬頭観音塔…他
推薦図書|石仏撮影の指南書
『心が癒される 石仏撮影を楽しむ』

書籍「心が癒される 石仏撮影の楽しみ方」

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2,993円(税込)

石仏はこのように写真にするのか、写真にすると石仏はこんなにも表情が豊かに見えるのか、ということが実例をまじえてわかりやすく書かれているので、写真表現の幅が広がります。
 
石仏撮影のイロハを学びたい人の指南書

前半の「石仏撮影に必要な基礎知識」については、ここまでとさせていただきます。