越谷市に引っ越してきて40年。ずっと気になっていた中華屋がある。自宅から自転車で5分ほどの場所。過去、何度かお店の前を通ったのだが、躊躇しては、のれんをくぐることなく帰ってきた。 それから幾星霜、令和2年10月27日・火曜日。午前11時。ついにそのお店に行ってきた。店の名前は高柳亭(こうりゅうてい)。場所は越谷市宮本町2-60。越谷健美の湯から200メートルほど北に向かった先にある。
懐かしい昭和のにおいのする店構え
懐かしい昭和のにおいのする昔ながらの店構え。新橋色(しんばしいろ)のトタン外壁がなんともいえない。新橋色とは、明治末から大正時代にかけて東京新橋の芸者衆に好まれた色で、わずかに緑がかった青のこと。当時はハイカラな色として流行した。今風にいえばターコイズブルーか。
のれんをくぐる
「中華そば 昔ながらの伝統の味」と書かれたのれんをくぐる。
店内も昭和
「いらっしゃい」。中から元気な男性の声が聞こえてきた。カウンター席越しの厨房で、70代後半と思われるご主人が笑顔で迎えてくれた。隣には奥さんらしい女性がいる。ご夫婦で切り盛りしているらしい。店内は昭和。内壁も椅子もテーブルもすべてが懐かしい。席は、カウンターに3席、4人掛けのテーブル席が2、座敷に4席。町の中華屋さんはこのくらいの席数がちょうどいい。新参者なのでテーブル席の末席に座った。
メニューが豊富
メニューも豊富。ラーメン・チャーハン・餃子などの鉄板メニューのほか、カツ丼・カレーライス・チキンライスなどのご飯類やアジフライ定食・ハムカツ定食・コロッケ定食などもある。麺類やご飯類のほかに定食もやっているのが町中華の魅力だ。
横浜中華街の聘珍樓(へいちんろう)で「ラーメンとカツ丼ね」とか「ハムカツ定食に餃子もつけてね」なんて注文したら店を追い出される(笑)
厨房上の壁にはセットメニューが書かれた黄色い張り紙がいろいろと貼られている。チャーハンとラーメン(850円)ラーメンとギョウザ(800円)ラーメン定食(700円)レバニライタメ定食(850円)カレーライスとラーメン(850円)……。どれもそそられる。そして安い。
充実したセットメニューと割安な料金設定も町の中華屋さんの魅力だ。聘珍樓で食べたら軽く3倍のお金はとられる(聘珍樓に恨みでもあるのか)
どれにするか迷ったが、今回は初回訪問ということで、鉄板のラーメン・チャーハン・餃子を注文した。
この場所に店をかまえて50年
厨房で調理をするご主人に、どのくらい前からここで中華屋をやっているのか訪ねたところ「50年になります」とのこと。50年前といえば昭和45年、西暦だと1970年。ボクが中学三年生のときだ。
ご主人の出身は宮崎県で、東京で一旗あげようと上京。紆余曲折あって、この場所(越谷)に流れ着いた。以来、50年、夫婦二人三脚でのれんを守っている。「一旗あげるどころか、もう白旗をあげてるよ」(笑)とご主人。
ま、考えようによっては、越谷市は東京のお隣の埼玉県に位置するので、宮崎県からみたら越谷は方角的には東京と言っても過言ではない。なので、いちおう「東京で一旗あげた」ということになるのではないか(ならないか)
注文した料理が運ばれてきた
なんてご主人と話をしていたらあれよあれよというまに注文した料理が完成。奥さんがラーメンとチャーハンを運んできてくれた。「ご主人は(ボクのこと)お近くですか」と聞かれたので、ここから自転車で5分ほどのところに住んでます、と答えた。また、40年前に越谷に引っ越してきて、ずっとこのお店が気になっていたが、今日、やっとおじゃまさせていただいた旨も伝えた。続いて餃子も運ばれてきた。
ラーメン
まずはラーメン。というよりは中華そばだ。具は、ナルト、チャーシュー、シナチク、ワカメ、ワケギ。このシンプルさもいい。ちなみにボクが子供のころはラーメンは支那そばと呼ばれていた。その後、中華そばになって、今はラーメンと呼ばれている。
スープもあっさり味で子どものころに食べた支那そばに近い。これまた懐かし昭和の味だ。麺も細くなく太くなくスープとよくからんでおいしい。そしてナルト。昭和世代には中華そばにはなくてはならない具だ。できればワカメの替わりに海苔を入れてほしいところだが、ま、ワカメも海苔も同じ海産物ということで、よしとする。
炒飯
続いて炒飯。卵・紅ショウガ・チャーシュー・ナルト・ワケギ……。色も鮮やか。「宝石箱や~」ってチョット古いか。中華お玉を使って丸く盛られたチャーハンと、鳳凰の絵柄の八角皿との構図もいい感じ。味も文句なし。ラーメンのスープとの相性も抜群。
餃子
そして餃子。外の皮はパリパリ。多すぎず、ほどよい量の具。ニンニクもしっかりきいている。旨い。この餃子はきっとファンも多いはず。ご主人の話によると「餃子二皿頼んでビールを三、四本飲んで帰る」常連客もいるらしい。
常連客登場
常連客と思われる男性が二人入ってきた。それぞれカウンター席の端っこの席に座る。どうやら自分の席が決まっているようだ。一人の男性はラーメン定食、もうひとりの男性は、ラーメンにお持ち帰りで焼きそばを注文した。一人暮らしのようで、焼きそばは夕食用か。
この間、出前の電話が三軒かかってきた。「玉子丼二つと餃子を一枚ですね」と、電話を受けた奥さんの声が聞こえてきた。出前の料理はご主人がバイクで届ける。高柳亭は出前も迅速で利用客も多いらしい。
もっと前から来ればよかった
出前もいいが、高柳亭はお店で食べたほうが味がある。ご主人と奥さんの接客や電話の受け答えをみていると、50年間、地元で愛されてきた理由がわかったような気がした。な~んだ、もっと早く来ればよかった、そう思った。
「ごちそうさまでした。おいくらですか」「ラーメンとチャーハンのセット(850円)と餃子(350円)で、1200円になります」(安い!)
知る人ぞ知る町中華の隠れた名店・高柳亭
お金を払って、店を出るとき、「わざわざ遠くからお越しいただきありがとうごさいました」と、奥さんが、のれんの近くまで来て、声をかけてくれた。ご主人と奥さんを「おやじさん」「おふくろさん」と呼び、両親のように慕っている常連客もいると聞いたが、これまた分かるような気がした。越谷市宮本町二丁目の高柳亭。知る人ぞ知る町中華の隠れた名店と呼ぶにふさわしい。
いつまでも夫婦二人三脚で昔ながらの伝統の味を守り続けてほしい。そう願って店をあとにした。
高柳亭(越谷市宮本町二丁目)営業情報
高柳亭の住所は埼玉県越谷市宮本町2-60。郵便番号は 343-0806。定休日は木曜日。営業時間は午前11時から午後8時まで(出前の注文は午後7時まで)。電話番号は 048-963-1881 。最寄駅は越谷駅。場所は、日帰り温浴施設・越谷健美の湯を目印にして北へ200メートルほど行った先( 地図 )。駐車場はない。一車線の道路に面しているので路上駐車は厳禁。新橋色のトタン外壁とよしずが目に飛び込んでくるので近くまで来たらすぐに分かる。