旧大房村の石仏
北越谷稲荷神社を出て右へ。最初の十字路を左折し直進。側道を350メートルほど歩くと、信号にぶつかる。左右に延びているのは、北越谷停車場線(咲いた県道405号)。信号を左に曲がってすぐが浄光寺。
浄光寺
浄光寺は、平安初期・大同2年(807)創立と伝えられる薬師堂を受け継いだ古刹(こさつ)で、650余年の歴史をもつと伝えられている(越谷市北越谷4-8-5)
浄光寺では、参道と境内で、四基の石塔を調査した。
参道
参道の左手、六地蔵の隣に、三基の石塔が並んでいる。
馬頭観音文字塔
三基の石塔のうち右端は墓塔。中央と左端の駒型の石塔は馬頭観音文字塔。二基とも主銘は「馬頭観世音」と刻まれている。
中央の馬頭観音塔の造立年代は不詳。左端の馬頭観塔の右側面には「昭和■年八月二日」「大房」「施主」「中村庄太郎」と刻まれている。
三基の石塔は、もともとは別の場所にあったものが、ここに移されたと思われる。
続いて、境内に移動。
境内
五智如来堂の左手に、石塔が二基、並んでいる。右は宝篋印塔(ほうきょういんとう)、左は猿田彦大神文字塔。
二基の石塔は、もともとは、大房薬師堂の境内地と道路(旧日光街道)脇にあったものだが、薬師堂の遷座(せんざ)にともなって、この場所に移された。
大房薬師堂の遷座については、後述。
宝篋印塔
江戸中期・享保16年(1731)造立。宝篋印塔は、「宝篋印陀羅尼」(ほうきょういんだらに)というお経を納めた経典供養塔。
伏鉢
笠の下の部分、伏鉢(ふくばち)の四面には、金剛界四仏を表わす梵字(種子=しゅじ)が刻まれている。
- 左側面…ウーン:東の阿閦(あしゅく)如来
- 右側面…キリーク:西の阿弥陀(あみだ)如来
- 正面…タラーク:南の宝生(ほうしょう)如来
- 裏面…アク:北の不空成就(ふくうじょうじゅ)如来
塔身
塔身の裏面には「享保十六辛亥天」「奉造立宝篋印塔一揆」「十月吉良日」「法印深宥」とあり、他の三面には陀羅尼経の功徳が刻まれている。
猿田彦大神文字塔
猿田彦大神文字塔。石塔型式は山状角柱型。江戸後期・天保2年(1831)造立。正面の主銘は「猿田彦大神」
台石の正面には、寄進者6人の名前が刻まれている。
右側面
右側面には「岐太神」(ふなどのおおかみ/くなどのおおかみ)と刻まれている。
左側面
左側面の脇銘は「天保二辛卯年」「九月吉日」
越谷市郷土研究会の加藤幸一氏によると、この猿田彦大神文字塔は、「もとは日光道中(奥州道中)沿いの今はなき大房薬師堂(現・宝性寺越谷別院)へ通じる通路の入口の南側角地にあった」(※10)という。
※10 加藤幸一「大袋地区の石仏」平成9・10年度調査/平成27年12月改訂(越谷市立図書館所蔵)110頁
大房薬師堂と五智如来堂
境内にある薬師堂と五智如来堂は、もともとは埼玉鴨場・正門の東側、浄光寺が管理する堂地内(※10)にあったが、浄光寺本堂の新築及び境内地の整備にともない、平成2年(1990年)に解放され、二宇そろって、この場所に新たに建立された。
※10 現在、大房薬師堂のあった場所には、宝性寺越谷別院が建てられている。
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2022年3月5日。梅が見頃を迎えた埼玉県北越谷の浄光寺を訪れた。梅の名所として名をはせた古刹で、俳人・高浜虚子も浄光寺の梅を句に詠んでいる。境内の梅の花をはじめ石仏や句碑、薬師堂・五智如来堂など散策スポットを写真と動画に収めた。
浄光寺の石仏調査はこれで終了。
帰路|北越谷停車場線
浄光寺を出て左へ。北越谷停車場線(咲いた県道405号)を直進。北越谷駅西口へと向かう。
帰着|北越谷駅西口
午後1時50分。北越谷駅西口ロータリー着。越谷市北越谷(旧大房村)の3か所・15基の石仏石塔を確認できた。
後記
私が在籍しているNPO法人・越谷市郷土研究会では、2005年から毎年、越谷市内の石仏や石塔の現状調査(文化財パトロール)を実施している。今年度(2024年度)は大袋地区北部(恩間村・袋山村・大林村・大房村)
今年度の文化財パトロールは参加できなかったので、資料をもとに、今回、個人的に、旧大房村(北越谷)の現地調査をおこなった。
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2024年5月17日。越谷市大林(旧大林村)の石仏と石塔を調査した。宮内庁埼玉鴨場の正門前を起点に◇大林寺◇野島浄山寺の道しるべ跡◇大林香取神社…の三箇所をめぐった。
参考文献
熊野山観音院浄光寺(2002)『古梅園100年 浄光寺つれづれ』中央大学生活協同組合出版局.
越谷市史編さん室(1979)『越谷ふるさと散歩(上)』越谷市史編さん室.
加藤幸一(2015)「平成9.10年度<大袋地区の石仏>平成27年12月改訂」越谷市立図書館所蔵.
庚申懇話会編(1995)『日本石仏事典(第二版新装版)』雄山閣.
日本石仏協会(2011)「新版・石仏探訪必携ハンドブック」青砥書房.
日本石仏協会(2000)「石仏巡り入門―見方・愉しみ方」大法輪閣.