不動堂と開演寺

下間久里不動堂

下間久里不動堂は開演寺と呼ばれた寺院の跡地に建てられている。開演寺について記されている文献とともに歴史と変遷をひもといていく。

開演寺の歴史

開演寺の開基は江戸中期・安永7年(1778)と伝えられている。かつては開演寺の建立を示す安永7年造立の石塔が不動堂にあったようたが、今はその石塔の所在は不明(※7)となっている。
 
江戸後期に幕府が編さんした地誌『新編武蔵風土記稿』下間久里村の項に「開演寺 新義眞言宗、末田村金剛院の末、春日山と号す、本尊不動を安ず、」(※8)とある。
 
また『越谷市の史蹟と傳説』下間久里村の項には、『武蔵郡村誌』(明治13年)「村名細帳」に記載されている「廃寺跡、開演寺本村南ノ方ニアリ明治四年十一月廃シテ今ハ村有地トナル」(※9)という一文が紹介されている。
 
ここから、江戸中期(安永7年〈1778〉)以降、この場所(下間久里の南)に、開演寺という不動明王を本尊とする真言宗の寺院があったが、明治4年(1929年)に廃寺となった、ということがわかる。

※7 「平成5・6年度調査 桜井地区の石仏 平成31年改定」加藤幸一(越谷市立図書館所蔵)79頁に「開演寺の建立を示す安永七年(一七七八)六月十日建立の『奉建立開演寺一宇』と刻まれた柱状型の普請供養塔がこの不動堂にあるというが、残念ながら今は不明である」とある。

※8 『新編武蔵風土記稿 第十巻(大日本地誌大系)⑯』雄山閣(平成8年6月20日発行)「下間久里村」182頁

※9 大八木行雄・関根徹也『越谷市の史蹟と傳説』越谷市教育委員会/越谷市文化財調査委員会(昭和35年4月15日発行)「桜井地区における史蹟と伝説の研究」下間久里村、11頁

寺子屋の校舎もあった

また、開演寺には寺子屋の校舎もあった(※10)という。

※10 『越谷市の史蹟と傳説』越谷市教育委員会/越谷市文化財調査委員会(昭和35年4月15日発行)「桜井地区における史蹟と伝説の研究」伝説(下間久里の不動様)28頁に、「江戸時代[……](開演寺)に寺子屋ができ、子供たちの教育にあたったが、老朽舎で再建にも経費がかかるので取り壊しとなってしまった」とある。

この寺子屋が不動堂

老朽化によって取り壊された寺子屋だが、明治以前に再建されたらしい。この寺子屋が不動堂である。堂内には、不動明王像のほかに、観音像と大師像も安置されていたという。現在の不動堂は昭和または平成に再建されたもと思われるが、再建年月は分からない。

不動堂の不動様

不動堂に安置されている不動尊についての言い伝えがある。最後にそれを紹介する。

現在の大袋駅東辺に不動様を安置した(開演寺という)寺があった。[……]村民の信仰が厚く、大切にされていた。江戸時代のことで、そこに寺子屋ができ、子供たちの教育にあたったが、老朽舎で再建にも経費がかかるので取り壊しとなってしまった。
 
そこでそこに安置されていた不動尊を(隣接している個人宅の)二階に置き、そのまま忘れかけたころ、村中でひと晩に二度も三度も火事があったり、疫病が発生したりしたので、易者にみてもらったところ、不動尊の「たたり」だと言うので、新たに不動堂を現在の場所に建立した。その後は火事や疫病が出なくなったといわれている。
 
再建期は不明であるが、明治以前であるらしい。この不動堂の内部は、不動尊のほか、観音様、大師様が二体安置されている。今でも老婆が中心となって、毎月二十七日に不動念仏講をしている。

 

※ 大八木行雄・関根徹也『越谷市の史蹟と傳説』越谷市教育委員会/越谷市文化財調査委員会(昭和35年4月15日発行)「桜井地区における史蹟と伝説の研究」伝説(下間久里の不動様)28頁

下間久里不動堂の場所

下間久里不動堂

下間久里不動堂の最寄駅は、東武伊勢崎線の大袋駅。東口から線路に沿って上り方面(北越谷駅方面)に100メートルほど歩いて、踏切の手前を左折。ひとつ目の信号を左に曲がって旧日光街道に出る。
 
たばこ屋(平商店)の30メートルほど先を左折すると、正面前方に不動堂が見える(上の写真の黄色い▼印)。不動堂へ向かう路地は私道なので駐車厳禁。車を駐めるスペースはない。空いているスペースは個人宅の敷地。

参考文献

参考文献

『越谷市金石資料集』越谷市史編さん室(昭和44年3月25日発行)
『新編武蔵風土記稿 第十巻(大日本地誌大系)⑯』雄山閣(平成8年6月20日発行)
「平成5・6年度調査<桜井地区の石仏>平成31年改定」加藤幸一(越谷市立図書館所蔵)
『越谷ふるさと散歩(下)』越谷市史編さん室(昭和55年4月30日発行)
『越谷市の史蹟と傳説』越谷市教育委員会/越谷市文化財調査委員会(昭和35年4月15日発行)
日本石仏協会編『日本石仏図典』国書刊行会(昭和61年8月25日発行)
日本石仏協会編『新版・石仏探訪必携ハンドブック』青娥書房(2011年4月1日発行)
日本石仏協会編『石仏巡り入門―見方・愉しみ方』大法輪閣(平成9年9月25日発行)
庚申懇話会『日本石仏事典(第二版)』雄山閣(昭和55年10月20日)