そらはな代表・長野津多子さんにインタビュー
津多子さんは看護師だった
津多子さんは、学校卒業後、5年ほど看護師をしていた。結婚して現場を離れ、専業主婦を16年。四人の男の子を育てる。子育ても一段落(いちだんらく)したところで、病院に戻りたいと思った。ただ、16年間のブランクがあることから、昔の知識のままで現場に復帰するのはイヤなので、看護学校に入って国家資格の正看護師を取得した(以前は准看護師だった)。
子育てが一段落して病院に復帰したが
現場に戻れた喜びの中、日々看護師の仕事に打ち込んだが、事務的に流れていく現場の仕事に違和感を覚え始める。末期の高齢者にチューブなどを付ける延命治療にも疑問を持ったので、二年後、病院を退職。
在宅看護の道へ
当人や家族に寄り添いたいと、在宅看護の道へと進んだ。二年間、在宅看護をつとめたあと、デイケア施設の看護師として職場異動になった。
デイケア施設での看護の仕事は、やりがいもあって、自分にいちばん向いていると思いました。朝夕の送り迎えも楽しくて。当人や家族の笑顔を見るのがなによりもうれしかったですね。
10年ほどたって、デイケア施設での看護をやっている中で、漠然と、高齢者の人たちが集えるような場所を作りたいと思うようになった。一人暮らしのお年寄りの居場所になるような、そんな場所が作れたら、という思いがつのって……
デイケア施設を退職
看護の仕事を辞めたものの、何から始めたらいいのか、まったく分からなかった。お店の経験もゼロ。どんな厨房機器をそろえたらいいのか。料理の腕前だって主婦の作る食事程度だし。お菓子作りも同様。不安ばかりが先に立ち、まったく前に進めず。時間ばかりが過ぎていった。
5年間、最初の一歩が踏み出せませんでした。
足踏みばかりしていてなかなか先に進めない津多子さんの背中を押してくれたのがご主人と四人の息子さんたちだった。
そんなとき、この場所(そらはな)の店舗物件の話が舞い込んできた。不動産屋に案内されて、店舗を見学していたときに、「ここであなたがやりなさい」という声が舞い降りたという。「えっ? わたしがやるんですか」と、驚いたが、これは「天の声」、「ゴー!」のサインだと思って、腹を決めたそうだ。
お店の経験はないんだから、あれこれ悩んでも仕方ない。今の自分ができることを一歩ずつやっていこう。そう思ってゼロから準備し、「コミュニティ cafe そらはな」をオープンさせたのが、2020年の6月。
オープンしたものの
店に来てくれるお客さんは数えるほど。どうしよう……と思って一日外を観察していたら、散歩で、そらはなの前を通るお年寄りが多いことに気がついた。そのお年寄りたちにチラシを配って、とにかくお店の中に入っていただいた。
「高齢者や一人暮らしのお年寄りの集いの場を提供したかった」という思いで、そなはらを始めたので、オセロや碁も用意した。ミニコンサートや講演などもおこなった。
そんな地道な活動もあって、少しずつお客さんが増え始め、リピーターも多くなってきた。そらはなを通じて友だちができた、という一人暮らしのお年寄りも多いという。
「そらはなは居心地がいいから長居しちゃうんだよなぁ」「悪いね、コーヒーだけでこんなに長い時間いさせてもらって」という声をいただくと、涙が出るほどうれしいですね。
人気の電動オルゴール
そらはなに来てくれるのはお年寄りだけではない。親子連れも来てくれる。店内には、木のおもちゃや木製手回しオルゴールのほか観覧車の電動オルゴールなどがあり、小さな子どもたちがとても喜んでくれるそうだ。
観覧車の自動演奏オルゴールは、某オルゴール作家が、そらはなの開店祝いにプレゼントしてくれたもの。暗くなると観覧車に電気が灯る。下校途中の児童たちが窓ガラス越しに立ち寄って眺めていくとか。
そらはなを切り盛りするのは津多子さんだが
そらはなは、津多子さんが切り盛りしている。日替わりランチと日替わりケーキはすべて津多子さんの手作り。コーヒーや紅茶などもすべて津多子さんが入れる。ご主人も店にいるが、あくまでも脇役に徹し、お客さんの話相手にまわっている。お客さんに対しても、話の主役はお客さん、自分は話相手(脇役)、という立場を貫いている。
そんなご夫婦を見ていると、そらはなのお客さんが長居する理由が分かるような気がする。
そらはなは、ほんとうに心地よい居場所だ。
ところでどうして店の名前を「そらはな」にしたんですか?
「空」と「花」をイメージして、という答が返ってくるかと思いきや…
自宅で飼っている猫と犬の名前なんです。猫が「そら」、犬が「はな」。猫のそらちゃんは、今年(2021年)の11月2日に他界しました。
続いてハーブティーをいただく
津多子さんへのインタビューを終え、ハーブティーをいただくことにした。