越谷市三野宮南西の古道沿いにある三基の石塔を調べた。調査した路傍の石仏を写真とともにお伝えする。場所は、三野宮香取神社の北西100メートルの畑地にある。
三基の石塔|三野宮南西
調査したのは、2024年5月23日。道端、畑の中に、三基の石塔が並んでいる。
- 青面金剛像庚申塔|宝暦7年
- 青面金剛像庚申塔|寛政11年
- 六十六部廻国塔|延享元年
それでは順番に調べていく。
青面金剛像庚申塔|宝暦7年
向かって左端の石塔は、青面金剛像庚申塔。江戸中期・宝暦7年(1757)造塔。石塔型式は駒型。
正面の最頂部に日月、中央に青面金剛像が、浮き彫りされている。最頂部の「日月」は、劣化によって、「瑞雲に乗った日」しか確認できない。
青面金剛は六手合掌型。
中央の両手で合掌。左上手で法輪、左下手で弓、右上手で三叉鉾(さんさぼこ)、右下手で弓を持っている。
青面金剛像は大別すると、「合掌型」(がっしょうがた)と「剣人型」(けんじんがた)がある。中央の両手で合掌しているのが合掌型。左手で、ショケラと呼ばれる人身(じんしん)の髪をつかみ、右手で剣を持っているのが剣人型。
邪鬼と三猿
青面金剛に踏みつけられているのは邪鬼。最下部に三猿が陽刻されている。三猿は向かって左から聞か猿・見猿・言わ猿。
左側面
左側面の脇銘は「宝暦七丁丑」「三之宮」
右側面
右側面には「八月吉日」「施主」「高砂組」とある。「高砂組」の銘から、このあたりは、三野宮村の高砂組という小村落(小名=こな)だったことがわかる。
この庚申塔は三野宮村高砂組の講中(※1)によって造立された。
※1 講中(こうじゅう)とは信仰者の集まり。
青面金剛像庚申塔|寛政11年
真ん中の石塔は、江戸後期・寛政11年(1799)造塔の青面金剛像庚申塔。石塔型式は笠付き角型。笠の正面に「瑞雲に乗った日月」が陽刻されている。
青面金剛像
青面金剛像は、六手剣人型。憤怒の相を表わす怒髪(どはつ)もよく表現されている。左手で、ショケラと呼ばれる人身(じんしん)の髪をつかみ、右手で剣を持っている。
その他の持ち物は、左上手で法輪、左下手で弓、右上手で三叉鉾(さんさぼこ)、右下手は劣化していて確認しづらいが、矢をもっている。
邪鬼と二鶏
青面金剛は、左足と右足で、それぞれ一匹ずつ邪鬼を踏みつけている。二匹の邪鬼を踏みつけている青面金剛像は、越谷市内では珍しい。
邪鬼の下には二鶏が陽刻されている。
左側面
左側面の脇銘は「寛政十一己未年□月吉祥□」
右側面
右側面には「三之宮村講中」とある。
台石
台石は、土の中に埋もれていて、銘などは確認できない。
平成9年(1997)に、この庚申塔を調査した、越谷市郷土研究会・加藤幸一氏の調査報告「大袋地区石仏」(※2)によると、台石の正面には、陽刻された「三猿」と、世話人の名前、左側面と右側面には、22人の女性の名前が刻まれている。
この庚申塔は女性だけで建てた希少な一基だ。
※2 加藤幸一「大袋地区の石仏」平成9・10年度調査/平成27年12月改訂(越谷市立図書館所蔵)61頁
六十六部廻国塔
右端の石塔は、地蔵像を主尊にした六十六部廻国塔(ろくじゅうろくぶ・かいこくとう)。江戸中期・延享元年(1744)造塔。石塔型式は舟型。
大乗妙典(だいじょうみょうてん)とも呼ばれる法華経(ほけきしょう)を66部写経し、全国66か国の寺院を巡礼して、1部ずつ奉納した記念に建てられた供養塔のこと。六十六部廻国塔とも呼ばれる。
正面中央
錫杖(しゃくじょう)と宝珠を持った地蔵菩薩立像が、浮き彫りされている。最下部に「萬人講」(まんにんこう)と刻まれている。
「万人講」は、神社・仏閣に参詣したり、堂塔の建立修理などに寄進したりするために、村や集落などで作る信仰者の集まりのこと。
右脇銘
向かって右の脇銘は「奉供養大乗妙典六十六部回国所願成就處」「延享元甲子天」「六月毅旦」
左脇銘
左側の脇銘は「玄心妙弥」「善好沙弥 享保十九寅 三月十四日」「秋好信女 享保十三酉(※3)十月十六日」「本願主徹心敬白」
※3 享保13年(1728)は「酉年」ではなく「申年」。「酉年」は、享保14年なので、干支を間違えているようだ。
場所
三基の石塔がある場所は、三野宮香取神社前の古道を北西に100メートルほど進んだ右手の道路脇。民家の畑の中( 地図 )
関連記事
三基の石塔から20メートル離れたところに、二基の石仏が安置されている石祠がある。この二基の石仏については以下の記事で紹介している。
越谷市三野宮の南西・畑の角地にある小祠(しょうし)に二基の石仏が安置されている。片方は、道しるべ付き観音菩薩立像。もう一基は、青面金剛を主尊とした庚申塔とされてきたが、現地で調べた結果、馬頭観音を主尊とした供養塔の可能性が高いことがわかった。
参考文献
本記事を作成するにあたって、引用した箇所がある場合は文中に出典を明示した。参考にした文献は以下に記す。
加藤幸一「大袋地区の石仏」平成9.10年度調査/平成27年12月改訂(越谷市立図書館所蔵)
越谷市史編さん室編『越谷市金石資料集』越谷市史編さん室(昭和44年3月25日発行)
庚申懇話会編『日本石仏事典(第二版新装版)』雄山閣(平成7年2月20日発行)
日本石仏協会編『石仏巡り入門―見方・愉しみ方』大法輪閣(平成9年9月25日発行)
日本石仏協会編『新版・石仏探訪必携ハンドブック』青娥書房(2011年4月1日発行)