越谷市平方の北通り沿いにある道標付き篆書(てんしょ)文字庚申塔と勝地蔵を調べた。調査した路傍の石仏を写真とともにお伝えする。調査日は2025年7月13日。

二基の石仏

二基の石仏|越谷市平方

古利根川の南600メートル、越谷市平方の平方北通り沿いに、道標付き篆書文字庚申塔と勝地蔵が、それぞれトタン屋根の覆屋(おおいや)の下に安置されている。

道標付き篆書文字庚申塔

篆書文字庚申塔

向かって左側は道標付き篆書(てんしょ)文字庚申塔。江戸後期・寛政7年(1795)造塔。石塔型式は駒型。石塔には紙垂(しで)の付いたしめ縄が張られている。
 
越谷市郷土研究会の加藤幸一氏によると「この石塔にはわらじを奉納する信仰がかつてみられた」(※1)という。

※1 加藤幸一「桜井地区の石仏」平成5・6年度調査/平成31年8月改訂(越谷市立図書館蔵)旧平方村の石仏「道標付き文字庚申塔」48頁

正面

篆書文字庚申塔

正面中央に篆書体で「青面金剛」(しょうめんこんごう)と刻まれている。脇銘は「寛政七卯年」「正月吉祥日」。下部に寄進者10人の名前が確認できる。

置き石

置き石

石塔の前に三角おにぎりのような形をした置き石が置かれている。置き石の上には、平べったい小さな円形の石が二個、鏡餅のように重ねられている。

左側面

銘

左側面(向かって右側面)の下部には、5人の名前が刻まれている。

右側面

道標

右側面(向かって左側面)の下部にも 5人の名前が確認できる。

道しるべ

上部には「向大どまり道」と刻まれていて、道しるべになっている。「向大どまり道」(向こう大泊道)は、向こうは大泊に至る道の意。
 
越谷市郷土研究会の加藤幸一氏は、こ道標について「この石塔から田畑を突っ切って大泊(おおどまり)に通じる道があったことを示す貴重な歴史的資料である」(※2)と、述べている。
 
大泊(越谷市)は、この場所から 1キロメートルほど南南西のところにある。

※2 加藤幸一「桜井地区の石仏」平成5・6年度調査/平成31年8月改訂(越谷市立図書館蔵)旧平方村の石仏「道標付き文字庚申塔」48頁

勝地蔵

地蔵菩薩立像

向かって右側、トタン屋根の覆屋(おおいや)の下に安置されているのは「勝地蔵」(かちじぞう)と名づけられた地蔵菩薩。昭和41年(1966)建立。

造形

勝地蔵

蓮台(れんだい)に載った地蔵菩薩立像が丸彫りされている。六角柱の台石の正面に「勝地蔵」と刻まれた銘板がはめ込まれている。
 
台石の背面には「昭和四十一年一月」の文字と建立者名が刻まれている。

持物

地蔵尊

地蔵尊は、右手に錫杖(しゃくじょう)、左手には宝珠(ほうじゅ)を持っている。

今昔写真

※白黒写真の出典は越谷市デジタルアーカイブ(※3)

上の写真の上段(カラー写真)は、2025年7月13日に私が撮影した二基の石仏。下段の白黒写真は、46年前、昭和54年(1979年)に撮影された二基の石仏(※3)
 
46年前は、二基の石仏の周囲は、笹竹の茂みと樹木でうっそうとしていたが、今は、うしろの樹木は伐採されて、見通しがよくなっている。
 
昭和55年(1980)4月に発行された『越谷ふるさと散歩(下)』に、この二基の石仏について下記のように記されている。以下、引用抜粋。

道(平方北通り)に沿って笹竹の茂みが垣のようにつらなっている所がある。
 
この笹竹の先に寛政七年(一七九五)の青面金剛庚申塔ととともに、昭和四十一年の造塔になる「勝地蔵」と刻まれた屋根囲いの地蔵供養塔が建てられている。
 
素朴な農村の面影が感じとられる一画といえよう。こうしたなかに乳牛を飼う牛舎などもみられるが、この先に木工所がある。

今はもう牛舎はなくなっているが、木工所は健在。

※3 白黒写真の出典:越谷市デジタルアーカイブ( 平方路傍の石仏

※4 『越谷ふるさと散歩(下)』越谷市史編さん室(昭和55年4月30日発行)57-58頁

場所

二基の石仏|越谷市平方

住所は、埼玉県越谷市平方125-3( 地図 )。郵便番号は 343-0002。場所は、旧日光街道「武里駅入口」交差点から平方北通りを400メートルほど進んだ左手。

参考文献

本記事を作成するにあたっては、関係書籍や調査報告書も参考にした。参考にした文献を以下に記す。引用した箇所については記事中に引用箇所を明記した。

参考文献

加藤幸一「桜井地区の石仏」平成5・6年度調査/平成31年8月改訂(越谷市立図書館蔵)
越谷市役所『越谷ふるさと散歩(下)』越谷市史編さん室(昭和55年4月30日発行)
外山晴彦・『サライ』編集部編『神社の見方』小学館(2007年7月15日 初版第6刷発行)
日本石仏協会編『石仏巡り入門―見方・愉しみ方』大法輪閣(平成9年9月25日発行)
日本石仏協会編『新版・石仏探訪必携ハンドブック』青娥書房(2011年4月1日発行)