越谷市大杉にある大杉自治会館(浄閑寺跡地)の供養塔と墓塔を調べた。場所は大杉稲荷神社の裏手。石塔は敷地の片隅にまとめられている。
大杉自治会館|浄閑寺跡地
大杉自治会館がある場所は、かつては、浄閑寺(じょうかんじ)と呼ばれる寺院だった。
浄閑寺の創建年代は明らかではないが、江戸後期に幕府が編さんした地誌『新編武蔵風土記稿』「大杉村」の項に、「浄閑寺 浄土宗、大松村清浄院の末、小池山と号す、本尊阿弥陀、開山龍文 文禄二年四月八日寂す」(※1)とある。
※1 『新編武蔵風土記稿 第十巻(大日本地誌大系)⑯』雄山閣(平成8年6月20日発行)「大杉村」181頁
浄閑寺
浄閑寺跡の石塔群と稲荷神社
『新編武蔵風土記稿』「大杉村」の項に、「稲荷社 村の鎮守なり、浄閑寺の持」(※2)とある。
「持」(もち)とは、持ち分の意で、「所有する」こと。大杉自治会館(浄閑寺跡)と隣接している稲荷神社は、浄閑寺が所有(管理)していた。
※2 『新編武蔵風土記稿 第十巻(大日本地誌大系)⑯』雄山閣(平成8年6月20日発行)「大杉村」181頁
『越谷ふるさと散歩(下)』(※3)に、「浄閑寺の開山は安土桃山時代(天正年間)」と、記されている。
浄閑寺の開山僧は、清浄院由緒書によると、竜天(※4)和尚と称し、天正元年(1573)に清浄院の末寺になり、竜天和尚は、文禄2年(1593)に遷化(せんげ=死去)したとあるので、浄閑寺は天正年間ごろ(安土桃山時代)の開山であることが知れる。
引用元:『越谷ふるさと散歩(下)』(※3)
※3 『越谷ふるさと散歩(下)』越谷市史編さん室(昭和55年4月30日発行)「大杉神社と大杉新田」27頁
※4 『新編武蔵風土記稿』(※5)では「竜文」となっている。
※5 『新編武蔵風土記稿 第十巻(大日本地誌大系)⑯』雄山閣(平成8年6月20日発行)「大杉村」181頁
以上を踏まえ、大杉自治会館の石塔群を見ていく。
石塔群
敷地の片隅、万年塀沿いに七基の石塔がまとめられている。
墓塔|九代目住職
向かって左端は、九代目住職(転良和尚)の墓塔。江戸中期・宝暦9年(1759)造塔。石塔型式は山状角柱型。
主銘は「當寺九代音蓮社喚誉轉良和尚」。「當寺」(当寺)は、浄閑寺のこと。脇銘は「宝暦九乙卯年」「四月初七日」
墓塔|八代目住職
左から二番目は、八代目住職(春察和尚)の墓塔。江戸中期・宝暦3年(1753)造塔。石塔型式は笠付型。
主銘は「当寺八代心蓮社等誉上人春察和尚」。脇銘は「寳暦三酉歳」「九月廿九日」(九月二十九日)
墓塔|六代目住職
左から三番目は、六代目住職(閑悦和尚)の墓塔。江戸前期・天和4年(1684)造塔。石塔型式は舟型。
中央に、阿弥陀如来立像が、浮き彫りされている。
浄閑寺の銘
脇銘は「浄閑寺第六世来蓮社本誉閑悦和尚」「天和四年子二月七日」「施主閑□」
脇銘の「浄閑寺」(上の写真の黄色い丸印)から、この場所(現・大杉自治会館)が、浄閑寺の跡地であることがわかる。
無縫塔
正面中央は無縫塔(むほうとう)。年代不詳。銘は確認できない。無縫塔は、僧侶の墓塔なので、歴代の住職を供養するためのものと思われる。
普門品供養塔|自然石
右から三番目、自然石の石塔は、普門品供養塔(※6)
江戸後期・天保9年(1838)造塔。正面最頂部には、聖観音を表わす梵字「サ」。主銘は「普門品供養」。脇銘は「天保九戌年」「四月吉日」
※6 普門品(ふもんぼん)とは、法華経の第八巻第二五品「観世音菩薩普門品」の別称。観音経とも呼ばれる。観音経(普門品)を一定回数読誦(どくじゅ)した記念に建てたのが普門品供養塔。
廻国塔
右から二場面は廻国塔(※7)。江戸後期・寛政3年(1791)造塔。石塔型式は山状角柱型。
正面の最頂部に、阿弥陀三尊を表わす梵字「キリーク」(阿弥陀如来)「サク」(勢至菩薩)「サ」(観世音菩薩)。主銘は「奉納大乗妙典六拾六部日本廻國」
脇銘は「寛政三亥年六月二十七日」「越後国岩船領村上領新保村」「願主 発動法子」
※7 廻国塔(かいくこくとう)とは、大乗妙典(だいじょうみょうてん)とも呼ばれる法華経(ほけきしょう)を66部写経し、全国66か国の寺院を巡礼して、1部ずつ奉納した記念に建てられた供養塔のこと。
普門品供養塔|山状角柱型
向かって右端は、江戸末期・慶応2年(1866)造塔の普門品(ふもんぼん)供養塔。
石塔型式
石塔型式は山状角柱型。
正面最頂部には、聖観音を表わす梵字「サ」。主銘は「普門品供養」。右側面(向かって左側)の銘は「慶応二丙寅年十月」。左側面(向かって右側)には、寄進者と世話人の名前が刻まれている。
大杉自治会館(浄閑寺跡)の石塔調査は以上
関連記事
大杉自治会館(浄閑寺跡)に隣接している稲荷神社については別記事にしてある。
越谷市大杉の鎮守・稲荷神社の庚申塔と、境内の風景を現地で取材した写真とともにお伝えする。場所は、大杉公園通り沿いにある川崎神社の北西100メートル先。
場所
大杉自治会館と稲荷神社
大杉自治会館の住所は、埼玉県越谷市大杉75( 地図 )。郵便番号は 343-0802。場所は、大杉公園通り沿いの川崎神社から北西100メートル。稲荷神社の裏手(上の写真の左手奥)が大杉自治会館。
参考文献
本記事を作成するにあたっては、関係書籍や調査報告書も参考にした。参考にした文献を以下に記す。引用した箇所については記事中に引用箇所を明記した。
加藤幸一「新方地区の石仏」平成7・8年度調査/平成31年1月改訂(越谷市立図書館蔵)
埼玉県神社庁神社調査団編『埼玉の神社(北足立・児玉・南埼玉)』埼玉県神社庁(平成10年3月31日発行)
越谷市史編さん室編『越谷ふるさと散歩(下)』越谷市史編さん室(昭和55年4月30日発行)
『新編武蔵風土記稿 第十巻(大日本地誌大系)⑯』雄山閣(平成8年6月20日発行)
日本石仏協会編『石仏巡り入門―見方・愉しみ方』大法輪閣(平成9年9月25日発行)
日本石仏協会編『新版・石仏探訪必携ハンドブック』青砥書房(2011年4月1日発行)