越谷市東大沢の中華料理店・満福が2023年3月26日に惜しまれつつ閉店。32年間の歴史に幕を閉じた。満福の料理に魅せられ通い続けた常連客は数知れず。看板料理の担々麺をはじめ炒飯・餃子・酸辣麺(さんらーめん)……。満福の料理を偲ぶ。

閉店の経緯

満福は、2021年3月に惜しまれつつ一度閉店したが、ご主人の体調が上向いてきたことと、常連客の再開を希望する多くの声によって、2021年11月3日から営業を再開。が、ご主人も無理がきかなくなってきたために、2023年3月26日をもって、ついにのれんをおろした。

満福の歴史

満福の店内

満福の料理を偲ぶ前に、満福の歴史について少し触れておく。満福のご主人は台湾出身(現在は日本国籍を取得している)。中華料理人歴60年。東京・西五反田にある中国料理店・東京酒楼で修行を積んだ。

1991年|開店

その後、数軒のお店で腕を磨き、1991年(平成3年)に、越谷の一ノ割で「満福」を開業。4年目に現在の場所(東大沢)に店を移した。
 
満福の歴史は32年。一ノ割で3年、東大沢では29年、夫婦二人三脚で店を切り盛りしてきた。煩雑時には娘さんほかお孫さんも店を手伝った。

2015年|一時休業

2015年(平成27年)、体調を崩したご主人が、しばらく店を閉めたことがあった。弱気になったご主人が、店をたたむことになるかもれしないという張り紙を出したところ、そんなことは俺たちが許さない!と、常連客が張り紙を破いて閉店を阻止した、という話は、知る人ぞ知る。

2020年|閉店延期

その後、ご主人の体調が悪化。2020年の12月で閉店することが決まった。12月20日をもって閉店するという話に常連客が営業継続を嘆願。閉店を3か月延長するという運びになった。

2021年|閉店

3か月間の営業継続後、2021年3月をもって閉店。

2021年|営業再開

ご主人の体調が上向いてきたことと、営業再開をのぞむお客さんの声に押され、2021年11月3日から営業を再開した。

2023年|閉店

ご主人も病院に通いながら厨房に立ち続けたが、年齢的にも無理がきかなくなってきたために、2023年3月26日をもって、再び閉店。32年の歴史に幕を閉じた。

看板料理は担々麺

担々麺

満福の看板料理は担々麺。満福でボクが最初に食べたのも担々麺だった。ゴマが絶妙に塩梅されているので、他店の担々麺とは違った風味と旨みのスープが特徴。この味にはまって担々麺しか注文しない常連客もいた。女性ファンも多かった。
 
別メニューの担々つけ麺も捨てがたく、担々麺にするか、担々つけ麺にするか、壁に貼られたメニューと毎回にらめっこしていた野球帽おじさん。その横で、注文をひたすら待ち続ける満福の奥さん。この風景ももう見られないのか……。ちょっと残念。

個人的に好きだった料理三品

酸辣つけ麺・炒飯・餃子

満福ではいろいろな料理を食べてきた。どの料理にも思い入れはあるが、とくに好きだったのは、酸辣つけ麺(さんらーつけめん)・餃子・チャーハンだった。
 
満福に通いはじめて半年ぐらいはいろいろな料理を食べたが、そののちは、酸辣つけ麺・餃子・炒飯、この三品を注文し、「食った、食った!」と、毎回おなかいっぱい食べるのが常であった。

酸辣つけ麺

酸辣つけ麺

スープを口に含んだときの酸味と喉越しのスパイシーさ。酸辣麺は、奥の深い味だった。酸辣麺と酸辣つけ麺があったが、ボクは酸辣つけ麺が好きだった。麺は細め。満福では、麺の量はおいしく食べられるようにと、あえて控えめにしてあった。足りないという人には替え玉が用意されていた。ボクは酸辣つけ麺に替え玉ふたつだった。一度、替え玉四つ食べたことがあるが、ご主人に、笑われた。

餃子

餃子

餃子は焼き目がカリッとしていた。運ばれたときの湯気に食欲をそそられた。アツアツを口に入れると、小籠包のような肉と野菜のスープがじゅわっと口に広がる。「うちの餃子は野菜から出るスープをしぼらずに、あまさず全部包み込んで作るから旨みがほかとは違う」。ご主人から満福の餃子の秘訣を聞いたときの話だ。満福の餃子はもう食べられないのかと思うと涙が出る。

炒飯

炒飯

メニューには玉子炒飯と書かれていた。具材は卵と少々のネギというシンプルなチャーハンだったが、はじめて食べたとき、「パラパラ」とは違った「ふわっと」した食感に、度肝を抜かれた。炒飯しか食べないという常連客もいたが分かるような気がする。

もう一度食べたい!料理の数々

満福の料理

満福で人気のあった料理は、担々麺・炒飯・餃子だったが、そのほかの料理にもそれぞれファンがいた。「もう一度食べたい!」。そんなファンの声に応えるべく、満福で食べた料理を偲ぶ。

水餃子

水餃子

水餃子も手堅い人気だったが、開店時間と同時に行くと、まだ準備ができていなくて、食べられないことも……。
 
こんなことがあった。ボクの隣のテーブルに座った若いスーツ姿の小柄な女性が、水餃子と担々麺とチャーハンを注文し、ペロッと完食。「今日は水餃子が食べられてよかった。おいしかったです」。そう言い残し、風のように店を去っていった。
 
あのスーツ姿の女性の食べっぷり、もう一度見たかった。

五目焼きそば

五目焼きそば

満福の五目焼きそばは、俗にいうあんかけ五目焼きそば。見た目は揚げ焼きそばにも見えるが、麺のまわりはカリカリに焼かれていて、中はしっとり。具は、エビ・キクラゲ・豚肉・チンゲンサイ・ニンジン・イカ…などなど。魚介にピッタリなオイスターソースのきいたあんがたっぷりかかっている。クセになる味だった。もう一度食べたい。

冷やし中華

冷やし中華

夏限定メニューの冷やし中華も秀逸だった。具材はクラゲ・キュウリ・エビ・カニ・蒸し鶏。麺に盛り付けた具材のてっぺんに白髪ネギ。そして皿の端にカラシが少々。夏になると「冷やし中華はじめました」ののれんが掛かる食堂や町中華の冷やし中華ではなく、○○飯店とか△△菜館とか、お店に入るとチャイナドレスを着た女性が出迎えてくれる高級中国料理店の冷やし中華だった。

炸醤麺

炸醤麺

「メニューにある炸醤麺って何ですか?」と、満福のご主人に聞いたら「炸醤麺? ジャージャー麺ですよ」と言われ、「そうか、ジャージャー麺は漢字で炸醤麺って書くのか」ということで、何度か食べた。
 
粗く刻んだ玉ねぎと挽き肉だけのシンプルな具材だが、甘辛い味噌ダレはクセになる。「よ~く麺と混ぜて食べてね」と、奥さんが食べ方を教えてくれたのが懐かしい。上に載ったきゅうりの千切りがとてもいいアクセントになっていた。

麻婆豆腐

麻婆豆腐

麻婆豆腐は夜の部ではやっているが忙しい昼の部ではやっていない。一度、夜の部で食べた麻婆豆腐の味が忘れられずに、昼の部で、ご主人にお願いしたことがあった。昼の部の開店時間と同時だったこと、たまたまその日は店内に誰もお客がいなかったこともあって、作ってもらえた。
 
横浜中華街で、何軒かのお店で麻婆豆腐を食べたことがあるが、満福の麻婆豆腐は、横浜の中華街のお店にも負けていない。こういう本格的な料理がさり気なく出てくるところが満福の魅力でもあった。

もやしそば

もやしそば

麻婆豆腐を食べたときに、麺類をいっしょに食べるんだったら、もやしそばがいいと、ご主人が勧めてくれたので、いただいた。もやしそばは女性に人気で、ファンも多かったらしい。スープは醤油ベース。たっぷりのもやしと、とろとろアツアツのあんがかかった麺。香りに誘われて急いで食べたら、熱くて舌はヒリヒリするし、上顎の皮はむけるし、猫舌のボクにはかなり手強い料理だった。

満福湯麺

満福湯麺

「満福湯麺」(まんぷくたんめん)と、湯麺の前に屋号がついた特製湯麺。一度しか食べたことはなかったが、やさしい味だった。アツアツでトロッとしたあんは、いつまでも冷めない。見た目はあっさりだけど、素材の味が染み込んだスープはエキスたっぷり。最後の一滴まで飲み干したくなる味だった。じっさいに最後の一滴まで飲み干した。二日酔いになると湯麺を食べに来る三十代の独身男性客がいたそうだ。

味噌ラーメン

味噌ラーメン

中華料理人が作る味噌ラーメンってどんな味なんだろう。そう思って注文した。いわゆるラーメン店の味噌ラーメンのようなコッテリした味を想像したけど、シャキシャキ野菜の素材の味を引き立てるシンプルでわりとあっさりといただける味噌ラーメンだった。一部のファンから根強い支持を受けていた。吉川から満福の味噌ラーメンを食べに来ているという年配の女性を見かけたことがある。

中華丼

中華丼

昼の部のメニューで唯一のご飯物が中華丼だった。一度だけ食べた。キクラゲ・豚肉・ニンジン・タケノコ・白菜・エビ・イカ・チンゲンサイ…。とろみのかかった彩り豊かな具材の下で白いご飯がちょこっと顔をのぞかせている。なかなかうまかった。もう一回食べたいな、と思いつつ食べる機会を逸してしまった。残念。

酢豚

酢豚

酢豚は昼の部では提供されないメニューだった。一度、夜の部で食べた酢豚の味に感動し、前日に満福のご主人にお願いして、翌日、昼の部の開店時間ちょっと前に店に来るように言われ、まだ客が誰もこないうちに作ってもらった。そのときに食べた酢豚が上の写真。
 
満福の酢豚は豚肉の揚げ加減が絶妙だった。肉の旨みが衣にぎゅっと閉じ込められている。あの食感は、ほかの店では味わえない。満腹の揚げ物は衣がサクサクしていたけど、ご主人が「衣に重曹を使っているからだよ」と教えてくれた。写真を見ていたら満福の甘酸っぱい酢豚の香りがよみがえってきた。

閉店を惜しむ声

満福閉店の話を Facebook で発信したところ、多くの方から閉店を惜しむコメントが寄せられた。一部、名前を伏せて紹介する。

担々麺

「満福の坦々麺、雑味のない上質な味、最高でした」(男性)「残念としか言葉が出ません。主人が担々麺命だったので1月に食べに行った時もご主人とおかみさんと話をしたけど辞めるなんて聞かなかったからショックです。お孫さんがうちの息子と同じ年なのでよく声をかけてくれました。ご夫妻共にお体大事にして欲しいです、今までありがとうございました」(女性)

炒飯

「担々麺も好きでしたが、チャーハンが大好きでした。もうあの味が食べれないなんて……」(男性)「家の近所で評判も聞いてたので、今度 行ってみようと思っていたのに……。食べることが出来ず、閉店とは残念です」(女性)

追記|満福のご主人からお礼の言葉を言付かった。

満福のご主人

ボクの Facebook を通じて寄せられた満福閉店に関する上記のコメントを満福のご主人に読んで聞かせたところたいへん喜んでくれた。というより感激していた。満福のご主人から、ボクの Facebook にコメントを寄せていただいた方々へ伝えてほしいと、お礼の言葉を預かったので、以下に記す。ちなみに上の写真の男性は満福のご主人。

須藤さんの Facebook にコメントを残してくださったみなさん。ありがとうございました。みなさんのコメントは、すべて目を通させていただきました。また長年にわたって満福をかわいがっていただき、感謝しています。みなさんのおかげでなんとか30年という間、お店を続けることができました。
 
閉店を決めたものの多くのお客さまから「まだできるだろう!」「辞めないでくれ」という声がたくさん寄せられています。ありがたいことです。ですが、ひとまず、いったんここで満福はおやすみさせてください。このまま隠居して余生を過ごすということは私の性には合いません。体と相談しながら、今までお世話になったみなさんに、何かまた提供できるものがあるかどうか、考える時間をいただきたいと思います。
 
30年間、満福を応援していただき、ほんとうにありがとうございました。

ありがとう満福!

最後に満福ファンを代表してボクからひとこと。

ありがとう満福!

ありがとうご主人と奥さん。ボクらはけっしてあの料理の味は忘れません。そしてお二人のことも。越谷にあんな素敵なお店があったことを誇りに思います。またいつの日か、新・満福という形で戻ってきてくださることを夢見ています。どうぞいつまでもお元気で。