越谷市北後谷・根郷自治会館(光明院跡地)にある庚申塔と普門品供養塔を調べた。場所は越谷街道の西教院から北100メートルのところにある。
根郷自治会館
調査日は、2025年1月4日。調べたのは以下の四基
- 青面金剛像庚申塔
- 青面金剛像庚申塔
- 普門品供養塔
- 文字庚申塔
根郷と光明院
この場所の住所表記は「北後谷」(きたうしろや)だが、越谷市郷土研究会の加藤幸一氏によると、かつて「ここは、根郷(ねごう)と呼ばれる小字(こあざ)の地域」だったという。(※1)
※1 加藤幸一「荻島地区石仏」平成14年度調査/平成29年3月改訂(越谷市立図書館蔵)63頁
また、自治会館と墓地がある場所には、光明院と呼ばれる寺院があった。
江戸後期・幕府が編さんした地誌『新編武蔵風土記稿』「後谷村」の項に、「光明院 新義眞言宗、瓦曾根村照蓮院門徒なり、本尊薬師を安ず」と記されている(「安ず」は安置するの意)。瓦曽根の照蓮院は今もある。
※2 『新編武蔵風土記稿 第十巻(大日本地誌大系)⑯』雄山閣(平成8年6月20日発行)151頁
それでは、根郷自治会館の石塔を順番に見ていく。
四基の石塔
自治会館に通じる小道に沿って四基の石塔が並んでいる。
青面金剛像庚申塔
向かって左端は、青面金剛像庚申塔。石塔の最頂部が破損しているので型式は不明。江戸後期・嘉永3年(1850)造塔。上から「日月」「青面金剛像」「二邪鬼」「三猿」が陽刻されている。
青面金剛は一面六臂(いちめんろっぴ=顔がひとつて腕が六本)の剣人型。
左側面の脇銘は「嘉永三庚戌十月吉日」。台石の正面には「講中」と刻まれ、願主・寄進者八人の名前がみえる。
剣人型・合掌型
青面金剛像の多くは、腕が六本(六臂=ろっぴ)で、右手に剣を持ち、左手に「ショケラ」と呼ばれる人身を持つ剣人型(けんじんがた)と、中央の手が合掌している合掌型(がっしょうがた)の二種に大別できる。
上の画像の左側が、剣人型・青面金剛(大聖寺・相模町)。右側が合掌型・青面金剛(大里・旧日光街道路傍)
二邪鬼
風化が進んでいて写真では見づらいが、青面金剛が、左足と右足で、それぞれ二匹の邪鬼の頭を踏みつけている。
三猿
最下部の三猿は、左から言わ猿・聞か猿・見猿。
写真ではわかりづらいが、右端の見猿は、肩車をしてもらっている子猿が、親猿の目を手でおおっている。この姿は珍しい。
参考|加藤氏のスケッチ
※3 上のスケッチは加藤幸一氏提供
越谷市郷土研究会の加藤幸一氏が、平成14年(2002)に、この庚申塔を調査してスケッチに記録しているので、加藤氏に許可を得て転載した(※3)。青面金剛に踏みつけられている二匹の邪鬼と、見猿の様子がよくわかる。
※3 加藤幸一「荻島地区石仏」平成14年度調査/平成29年3月改訂「根郷自治会館」青面金剛像庚申塔(嘉永3〈1850〉)24頁
青面金剛像庚申塔
左から二番目も青面金剛像庚申塔。石塔型式は山状角柱型。江戸中期・正徳4年(1714)造塔。正面に「青面金剛」「邪鬼」「三猿」が陽刻されている。台石の銘は「正徳四午年」「十一月吉日」
一面十臂の青面金剛
石塔の風化と劣化がひどく、写真では確認できないが、この青面金剛は、顔がひとつで、腕が十本ある。一面十臂(いちめんじゅっぴ)の青面金剛像は越谷市ではたいへん珍しい。
参考|加藤氏のスケッチ
※4 上のスケッチは加藤幸一氏提供
越谷市郷土研究会の加藤幸一氏が、平成14年(2002)に、この庚申塔を調査してスケッチに記録しているので、加藤氏に許可を得て転載した(※4)。腕が十本ある青面金剛像の姿がよくわかる。
※4 加藤幸一「荻島地区石仏」平成14年度調査/平成29年3月改訂「根郷自治会館」青面金剛像庚申塔(正徳4〈1714〉)23頁
脇銘
右側面の脇銘は、最頂部に、青面金剛を表わす梵字「ウーン」。その下に、「奉造立庚申供養石塔講中現當二世安楽攸」と、刻まれている。
普門品供養塔
右から二番目は、普門品供養塔(ふもんぼんくようとう)。石塔型式は山状角柱型。江戸後期・寛政12年(1800)造塔。
正面最頂部に、聖観音を現わす梵字「サ」。主銘は「普門品二万巻供養」。この石塔は、普門品(観音経=かんのんぎょう)を二万巻読誦した記念に建てられた供養塔。
台石
台石には「講中」の銘と、四人の名前が刻まれている。
左側面
左側面の銘は、「村内安全」「五穀成就」「後谷村」
右側面
右側面には「寛政十二歳」「申」「十一月吉日」とある。
文字庚申塔
向かって右端は、文字庚申塔。石塔型式は駒型。江戸後期・寛政12年(1800)造塔。主銘は「青面金剛」。最頂部に、瑞雲に乗った日月、下部に三猿が陽刻されている。
左側面の脇銘は「庚寛政十二年」「申十一月吉祥日」。台石には寄進者と思われる十数人の名前が刻まれているが、劣化がひどく、解読不能。
石工 長兵衛
台石に「石工 長兵衛」と刻まれているが、越谷市郷土研究会の加藤幸一氏によると、石工・長兵衛は、「現在の越ヶ谷本町の小島石材店の先祖」(※5)とのこと。
※5 加藤幸一「荻島地区石仏」平成14年度調査/平成29年3月改訂「根郷自治会館」文字庚申塔、63頁
場所
根郷自治会館の住所は、埼玉県越谷市北後谷769。越谷街道沿いの西教院から北100メートルのところにある( 地図 )。ブロック塀の中は墓地になっている。
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参考文献
本記事を作成するにあたって、引用した箇所がある場合は文中に出典を明示した。参考にした文献は以下に記す。
加藤幸一「荻島地区石仏」平成14年度調査/平成29年3月改訂(越谷市立図書館蔵)
越谷市役所『越谷ふるさと散歩(下)』越谷市史編さん室(昭和55年4月30日発行)
越谷市史編さん室『越谷市金石資料集』越谷市史編さん室(昭和44年3月25日発行)
『新編武蔵風土記稿 第十巻(大日本地誌大系)⑯』雄山閣(平成8年6月20日発行)
庚申懇話会編『日本石仏事典(第二版新装版)』雄山閣(平成7年2月20日発行)
日本石仏協会編『日本石仏図典』国書刊行会(昭和61年8月25日発行)
日本石仏協会編『石仏巡り入門―見方・愉しみ方』大法輪閣(平成9年9月25日発行)
日本石仏協会編『新版・石仏探訪必携ハンドブック』青娥書房(2011年4月1日発行)
謝辞
本記事をまとめるにあたって、越谷市郷土研究会顧問・加藤幸一氏の指導を仰ぎ、校閲もしていただきました。加藤氏には心からお礼申しあげます。